エロ雑誌に始まりエロ小説まで、官能文学の編集を長年務めてきたIさんと先日、お話する機会があった。
もう70歳を過ぎているが、今もフリーランスで現役だ。仕事も女も。
そのIさんが言うに、人妻もの作品に対する若い読者の反応が、このところ変わってきたんだそうな。
ちなみに彼の言う「若者」は、おおむね30歳以下を指すらしい。
昔から「一盗、二婢、三娼」と言うように、他人様の奥方に手をつけるのは男にとって無上の悦び。
だからこそ、人妻ものは官能文学の主流に近い位置を占めてきた。
ところが、バブルが崩壊した十数年前くらいから、人妻ものを見る若い読者の目が変わってきたという。
具体的には、亭主以外と同衾する人妻を「スベタ」「肉便器」と貶め、亭主に同情する奴が増えてきた。
読者の目線が「人妻を篭絡する男」から「妻が篭絡される夫」にシフトしたというべきか。
やたら道徳を振りかざして「ケシカラン」と叫ぶ、かつての官能小説読者にはあり得なかった反応だ。
といって最近の若者が道徳心に溢れているかというと、さにあらず。
レイプやSMを扱った作品は幅広い年代で人気だし、むしろ陵辱作品の鬼畜度合いはエスカレートしている。
どうして人妻ものだけが目の敵にされるのか。
「若い連中の男としての質が落ち、自信を失っているせいじゃないか」とIさんは分析する。
彼に言わせれば、まず若者の頭が悪くなった。
昔と今では大学進学率も違うし「学力」を単純比較することはできないが、
より広い意味での「知性」に欠ける人間が増えたということだろう。
頭だけでなく精神的にも未熟な奴が増えた。
社会性や責任感だけでなく発想や洞察力もお粗末で、20歳・・・下手をすれば30歳を過ぎても
中学生のような考え方しかできない人間が目立つそうだ。
子供の体力や運動能力がここ20年ほど低下し続けているのは知られているが、
Iさんが見る限り、精力も確実に衰えているという。
精子の数も減っているそうだが、それ以上にセックス自体が淡白になっている。
「昔の若者は夜更けから空が白むまで、時間も忘れて女を抱いたものだが、
今の若者で3回戦、4回戦と頑張れる奴がどれだけいるか」とIさん。
回数だけでなく1回の持続時間も落ち、何より「快感を貪ろう」という意欲が決定的に乏くなった。
この淡白さが「高齢童貞」増加の原因かもしれない。
体力も精力もなければ、頭も悪いし精神的にも幼い。20年前、いやIさんが若かった半世紀前と比べても、
若者の「男(雄)としての魅力」はどうしようもなく劣化した。
それが官能文学の読み方も変えてしまった・・・とIさんは話す。
かつての若者は財力や知性で中高年に劣るものの、体力・精力と性への貪欲さを武器に戦った。
老練さと若さのせめぎ合いが人妻ものの醍醐味だったわけだ。
しかし今、財力でも精力でも中年に太刀打ちできず、老年とすら互角に戦えない若者が少なくない。
劣化を自覚した若者たちは、同時に男としての自信も失った。
「人妻ものを読むと、どうしても寝取る側じゃなく、寝取られる側に自分を重ねてしまうんだな」
Iさんは溜息をつく。
編集者として毎月数十編の投稿作品にも目を通すIさんだが、最近の若者からの投稿は
人妻を奪う作品より、自分の妻や恋人が奪われる作品が多いという。
それも、大切な人を奪われる苦悩を精緻に描くならまだしも、
社会的手段で浮気妻や間男に報復して恨みを晴らすという、子供っぽい貧困な発想の筋書きが目立つ。
「こういう金玉の萎んだ男ばかりが増えて、この国はどうなるのかね」
現役の30代人妻との月2回の逢瀬が楽しみというIさんは、柄にもなく将来を憂えている。