失業して一年近くなる蓄えもそろそろ、底をついてくる。子供は既に自立していて何一つ心配ないが自分達の将来の事も考えなければならない。しかし、明日の夜から夜の仕事に行く妻の横顔から見ると決心は固いようだ。何も言えない自分の力無さを知り情けないと思った。また何か妻を見ていると生活のために働きに行くという意気込みは感じられたがどこが何かを期待しているようにもみえた。『いつからそんな仕事を探してたの?』やや強い口調で『前からよ!あなたに負担をかけたくなかったから言わなかったけれど』友達の紹介という。誰と聞くと短大時代の友達の名前を言った。確か二人の結婚式の披露宴に出席してくれた稲田 様だ。友達には電話やメールなどで近況を語り合ったりしているようだが、プライベートな事まで打ち明けるものだろうかと疑問に思った。出勤初日は少し早めに出掛けなければならないということで車で送ることにした。妻は昼過ぎくらいから落ち着かない様子だった。衣装は自前でいいそうだ。しかし、ジーパンはNG。スカートでなければならないそうだ。それを聞くとやはり、男相手の仕事に妻は行くのかと情けないやら嫉妬する気持ちがわいてくる。4時前に出かけるというので送って行くことにした。助手席に座る妻のスカート丈に目をやる。『ちょっと短すぎないかい』『これくらい平気よ』『迎えに行くからな』『何心配してるの』『心配だよ!愛する妻に働きに行ってもらうんだから』クスッと笑みを浮かべながら『愛する妻なんて言ってくれたの何年ぶりかしら…。』駅裏にあるお店から少し離れたところで、『ここで良いわよ』ドアに手をかけた。前まで送ると言うと格好悪いからと言う。仕方なく降ろした。迎えに行くからと言うとタクシーで変えるからいいよと言ったが迎えに行くことにした。自宅で一人食事をするが食が進まない。迎えに行くからアルコールは飲めない。滅多にかかってこない電話がなった。寂しい心とは裏腹に『はい、山下でございます』と営業的に電話に出ると、仕事を紹介してくれたと言うと友達の稲田様だったので『お世話になって喜んでましたよ』と思わず口から出てしまった。そう言うと、変な間があったように思った。『瑞希ちゃん…』って受話器から聞こえるので『え~!今日から行きましたが…』『どこへ』と稲田さんが言うので…。『いや!?紹介していただいた仕事に出掛けてますが』と言うと紹介などしていないと言う。『あっ!そうですか。電話があった事を伝えておきます』と言ってとりあえず電話を切った。確か友達の稲田様の紹介と言っていたが、考えれば考えるほど何故、嘘!ウソ!を言ってまで……。落ち着かないので酒をちびちびと呑んでしまった。気がつけば夜中の1時前だった。