バイト先のファミレスで、最近入ってきた女子大生の真希ちゃんが気になって仕方ない。小柄で可愛らしい感じの彼女は、笑顔が可愛らしいリスみたいな印象の女の子だ。
俺は、同じ大学生で2つ年上で、取り立ててなにも取り柄のない男だ。1年前に彼女と別れて以来、女性とは縁のない生活を送っている。
真希ちゃんは、おそらく身長155センチくらいで、見た感じは子供みたいだ。でも、胸はしっかりと主張しているし、顔も可愛らしい感じだが、幼いという印象ではない。
もともと、地元で高校生の時もファミレスでバイトしていたようで、最初から即戦力だった。
「田中さん、6卓オーダー行けますか!?」
土曜日のディナータイム、いつものようにバタバタで忙しい中、真希ちゃんと二人でAダイニングを回していた。
正直、真希ちゃんと一緒だと楽で助かる。俺も仕事は出来る方だが、真希ちゃんはさらに出来る。高校生とかOLさんのバイトは、あまり仕事が出来ない人が多い。フォローしながら回すのは、けっこう大変だ。
今日は、真希ちゃんと一緒で良かったなと思いながら、忙しく働いていた。ある程度落ち着いてくると、真希ちゃんと話しながら適当に仕事をこなした。
「田中さんと一緒だと、すごくやりやすいです」
真希ちゃんも、俺と同じ感想を持っているみたいだ。俺は、真希ちゃんこそ動きが良いので助かるよと伝えた。
「へへ、褒められた」
真希ちゃんは、本当に可愛らしい笑顔をする。リスとか小動物を思わせる可愛らしさだ。正直、俺はメチャクチャ好意を持っている。出来れば、彼女にしたいと思っているくらいだ。
でも、真希ちゃんには地元の長野に彼氏がいる。遠距離恋愛だが、月1くらいで彼氏が会いに来ている。なので、そういう感じにならないように、明るく楽しい友人みたいな感じで行こうと思っている。
「田中さん、カラオケ行きませんか?」
真希ちゃんは、仕事終わりが近づくと、よく遊びに誘ってくれる。深夜近くまでバイトしてからだと、なかなか友達も誘いづらいのだと思う。
真希ちゃんとは、フィーリングも合う。カラオケやボーリング、食事なんかも好みが似ている。なので、一緒に遊ぶのは恋愛感情抜きでも楽しい。
「良いね、勝負しようか?」
「良いですよ。でも、どうせ田中さんの負けだよ。一回も勝った事ないじゃん」
真希ちゃんは、本当に楽しそうに笑う。正直、この態度や笑顔に勘違いする男も多いと思う。実際、このファミレスでも真希ちゃん狙いの男は何人かいる。
ただ、不思議なもので真希ちゃんを誘ったりはしていないみたいだ。俺ならガンガン誘うのになと思う。何にせよ、この後のカラオケが楽しみだ。
仕事が終わり、シフトリーダーのおばちゃんに挨拶をして店を出た。
「田中くん、真希ちゃん送ってあげて。最近、変な人多いから」
本当に心配そうに言う彼女。仕事には厳しいが、本当に良い人だと思う。俺は、了解ですと言って店を出た。
「安田さん、優しいね。でも、確かにこの時間一人で帰るの、けっこう怖いんだ。田中さんが送ってくれるの、本当にありがたいよ」
そんな事を言う彼女。俺は、ちょっとときめいている。本当に、仕草や話し方が可愛すぎる。微妙に訛っているのが可愛い。
そして、カラオケが始まった。短めのスカートで歌っていると、つい太ももを見てしまう。歌ってるだけで揺れる胸も、1年彼女がいない俺には、ちょっと刺激が大きい。
歌い疲れて休憩にパフェを食べながら、
「このパフェ、イマイチだね」
とか言いながら、やたらと笑った。なにがそんなに楽しいのかわからないが、とにかくよく笑う。俺もつられて笑った。
「田中さん、なんで彼女作らないの?」
真希ちゃんは、頬にクリームをつけた状態で聞いてくる。無邪気で子供みたいだ。俺は、なかなか出会いがないと告げた。
「ふ~ん、そうなんだ。田中さん面白いからモテそうだけどね」
真希ちゃんは、そんな事を言ってくれる。でも、モテるなんてとんでもない感じだ……
「そうなんだ。私は田中さん面白いと思うけどな……」
やたらと持ち上げてくれるので、ちょっとくすぐったい。
俺は、彼氏は東京には来ないの? と聞いた。
「う~ん、あんまり好きじゃないんだって。長野が大好きな人だから」
真希ちゃんは、寂しそうだ。学校卒業したら、長野に帰るの? と聞いてみた。
「うん。その予定だよ。そうだ、田中さんも長野来なよ。就職すれば良いじゃん。良いところだよ」
真希ちゃんは、そんな事を言う。俺は、なんで長野なんか行かないといけないのかと笑った。
「私が嬉しいもん。田中さんと遊ぶの楽しいし」
ドキッとする事を言う彼女。天性の小悪魔要素を持っているなと思ってしまった。
俺は、彼氏がいるでしょと言った。彼氏がいるのに、俺と遊ぶのもマズいでしょとも言った。
「なんで? なにがマズいの?」
真希ちゃんは、キョトンとした顔だ。確かに、男と女という感じではない。でも、はたから見たらそうではないと思う。
「そっか、そういうもんなんだ。じゃあ、こんな風に二人で遊ぶのはよくないのかな?」
真希ちゃんは、今さらな事を言う。俺は、返事に困ってしまった。
「フフ、なに困ってるの? 今さらじゃん。田中さんはそう言うんじゃないもんね。私の事、なんとも思ってないでしょ?」
真希ちゃんは、笑顔で言う。確かに、そんな感じは見せないようにしている。でも、内心はそんな事はない……。
「ゴメンね、変な事言っちゃった。明日って、休みだよね?」
真希ちゃんは、そんな質問をしてくる。俺は、そうだよと告げた。学校もバイトもない完全な休みだ。ゴロゴロしてすごそうと思っていた。
「じゃあ、ドライブ行こうよ! 夜景見たい!」
真希ちゃんは、急にそんな事を言い始めた。俺は、なんで夜景? 恋人同士で行くもんじゃんと言った。
「うん。そうだけど、彼長野だし。湘南平ってとこ行ってみたいな」
真希ちゃんは、可愛らしく言う。そんな態度を取られたら、行くに決まってる。
「やった! 田中さん、大好き!」
真希ちゃんにそんな事を言われて、テンションが上がってしまった。そして、頬のクリームの事を指摘した。
「え? 恥ずかしいよ……舐めて」
真希ちゃんは、ドキッとする事を言った。冗談だと思ったが、頬を俺の方に突き出している。え? 本気? と、戸惑った。俺は、紙ナプキンで拭いた。
「え~、なに照れてるの? 水臭いよ」
真希ちゃんは、少しすねている。前から思っていたが、真希ちゃんは言葉のチョイスがちょっと古い気がする。若いのに、なんとなく昭和とか平成の香りがする。
俺は、ごめんごめんと言いながら、彼氏さんに悪いと伝えた。
「なんとも思ってないくせに」
おどけたように言う真希ちゃん。本気でそう思っているのだろうか? だとしたら、とんでもない勘違いだ。なんとも思ってないどころか、奇跡が起きて彼氏と別れて俺と付き合ってくれないかなと思ってるくらいだ。
「じゃあ、行こっか。運転、大丈夫? 疲れたら言ってね。交代するから」
真希ちゃんは、運転免許は思っているが、日常的に運転はしてない。そもそも、東京で一人暮らしをしている学生が、車を持っている事も珍しいと思う。
俺は、たまたまボロい車を先輩から買えた。駐車場も、運良くアパートの敷地内にあって、大家さんの好意でかなり安く置く事が出来ている。
ガソリンが高いのでそれほど乗り回しているわけではないが、やっぱり車があると便利だ。
そして、ドライブが始まった。もう日付も変わったので、車は少ない。スムーズに首都高を走って、東名高速に出た。運転をしていると、どうしても真希ちゃんの太ももが気になってしまう。
スカートがけっこう短めなので、太ももがかなりあらわになる。
真希ちゃんは、しゃべりっぱなしだ。よくそんなに話題があるなと感心するくらいに、話しっぱなしだ。
「1年もいないんだね。ホント不思議。田中さんだったら、彼氏として最高だと思うけどな~」
真希ちゃんは、本当に褒めてくれる。もしかして、俺に気があるのかな? って思ってしまう。
俺は、真希ちゃんは彼氏と結婚を考えてるの? と聞いた。
「う~ん、わかんない。好きだけど、まだそこまでは考えられないかな?」
真希ちゃんは、素直に答える。彼氏の話題も、こんな風に素直に答えるので、やっぱり俺の事は男としては見ていないと思う。
多少なりとも気があれば、彼氏の話題はあまり話さないと思う。ちょっと寂しいなと思いながらも、このままの関係でいた方が楽しいだろうなと思った。
湘南平に着くと、平日の夜中という事もあって車は少ない。と言うか、ほぼいない。そして、駐車場の真っ暗さに怯んだ。本当に、すぐ横にいる真希ちゃんの表情すらわからない闇だ。
「エッ、こんなに暗いんだ……ちょっと怖い」
真希ちゃんは、明らかにビビっている。無理もないと思う。俺も怖い……。
でも、せっかくだから展望台までは行こうと誘った。
「う、うん……でも……田中さん、手繋いでくれますか?」
真希ちゃんは、ビビった口調のままだ。どうやら、本気で怖がっている。俺は、良いよと答えた。
車から出ると、真希ちゃんは俺の手をギュッと握る。それは、良いムードで手を繋ぐのとは違い、必死で握りしめている感じだ。
柔らかい手の感触……。握っていると、ドキドキしっぱなしだ。そして、かすかな光を頼りに歩き続ける。展望台に着くと、少し明るい。月明かりとか、遠くにある照明のおかげだ。
「すご~い! ホントに綺麗!」
真希ちゃんは、かなり驚いている。実際、ここの夜景はハンパない。範囲も広いし、明かりも多い。男の俺ですら、ドキドキしてしまう。
彼氏と来たかったでしょ、と、からかうように言うと、
「うん。そうだね。でも、田中さんとでも嬉しいよ」
と言われた。本当に、俺をときめかせる天才だと思う。夜景の効果もあり、ますます恋に落ちてしまった感じがする。
「田中さんこそ、私なんかと来ても嬉しくもなんともないでしょ? ゴメンね、無理言って」