真夏の夜の夢[6]


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「違うよ。吉伸のパスが高すぎたの」
晩御飯はカツカレーだった。いつもと同じように食卓ではマサルの甲高い声が響き渡る。ミサキは器用
にもその会話に交ざることができるのだが、私は計画のことで気が気でない。ひたすらスプーンを皿と
口の間を往復させる。
「なんだ、ユー姉しゃべんないな。彼氏にでもふられたか?」、マサルはこれでもかというくらいにカ
ツを口に含み、もごもごと言った。ちなみに私は「ユー姉」と呼ばれている。
「うるさいわね、テレビ見てるのよ、テレビ」、私は咄嗟の事に点いてもいないテレビを見ているなど
という馬鹿げたことを言ってしまった。
「テレビ点いてないわよ」、母が言った。
「やっぱユー姉はふられたんだよ。かわいそー」、マサルはきゃっきゃと笑いながら言った。このやろ
う、覚えていろよ……。私は何か吹っ切れた気がした。
「あんまり調子に乗ってると、あんたの風呂覗くよ」、私は言った。言ってやった。一瞬のことである
がミサキが私をちらりと見たのに気がついた。マサルは米を喉に詰まらせたのかゴホッ、ゴホッとむせ
た。
「ほら、そんなにふざけているからよ。三人とも早くご飯たべてさっさとお風呂にはいってしまいなさ
い」、母はそういうと立ち上がり、自分の皿を持って台所の方へ歩いて行った。
マサルは居間を出る前に「覗くなよ!」と私に言った。私は「はいはい」と今度は本当にテレビを見な
がら無関心を装った。
「おねえちゃん、さっきのはやばかったよ。感づかれちゃうじゃん」、ミサキは声をひそめ言った。
「ごめん、ごめん。まあ、とにかくあとはあれを飲ませるだけね。ホントにミサキ大丈夫?」
「まかせなさい。オレンジジュースに混ぜてマサルに飲ませるだけでしょ。楽勝よ」、ミサキは腰に両
手を当て言った。ミサキの顔はこれからの期待に満ちた満面の笑みを浮かべていた。それにしても、マ
サルのあの動揺ぶりはやっぱり気になるわね。

 

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