ある夏のことです。
その年は、特に暑かったのを覚えています。私は、妻と大学生の娘2人、大学時代の友人である原田さんと妻の春子さんとその娘さん、7人で旅行に行きました。
場所は東伊豆。秘湯だそうです。妻がしきりに勧めたので、少し高かったのですが、行くことにしました。
その時は、まだ7月上旬でオフシーズンであったため、ほとんどお客さんが来ていませんでした。宿は山の上ですが、砂利をしきつめた駐車場から見渡すと、だだっ広い海が見えます。そこには、船も数隻。
妻や娘達は、キャッキャッとはしゃいでいました。私は、ただ綺麗だなとだけ思っていました。
中に入ると、ロビーがあります。玄関では、年配の中居さんと若い中居さんが出迎えてくれました。2人とも、着物を着ておりとても綺麗に見えました。
年配の方の中居さんは、唇の下にあるホクロがセクシー。何故かニヤニヤしながら接客していました。その様子があまりにもおかしいので、私も思わずニヤリとしました。
ーこの中居さん、絶対変人だな。
若い方の中居さんは、色白でツンツンとした感じです。
ーこれで、デレっとしたら思わず惚れてしまいそうだ。
若い中居さん、手際がすごく良くあっと言う間に、荷物を上の部屋に運んでくれました。男の私でも重い荷物を、いとも簡単に担ぎ上げ運びます。
ー華奢な体をして、物凄い力持ちだな
年配の中居さんは、
「大きい荷物ですね。何が入っているんですか?」
と私に話しかけてきました。
「いやあ、本とパソコンが入っているんです。」
「まあ。博識なんですね。うちにも、本好きの者が1人おりまして。」
「そうなんですか。」
そうこうしているうちに、私達は外廊下に出ます。外なのに、涼しい風が吹きとても心地良く感じました。そこでは、若い男が1人淡々と、ホウキで掃除をしていました。その音を聞き、私は
ー風流だな
と思いました。側を通ると若者はニコッと会釈してくれました。私も思わずニコリとします。中は部屋というよりも家という感じ。とにかく、広い。大きな部屋が2つあり更に露天風呂まで付いていました。そして、広いベランダからは海が。
ー素晴らしいな
若い中居さん、娘とは笑顔で話すのに、私には何となく冷たい感じです。
ーそれもまたいいな。
私はそう思いました。
ー他には誰もいないのかな。ほとんど貸し切り状態だな
さて、私達は温泉に入った後、食事をとりました。私は妻に勧められるがままに酒を飲みました。今思うと、あの時、妻はあまりお酒を飲んでいなかったように思います。
夜、私は途中で目を覚ましました。体が火照ったからです。私は火照った体を冷やそうと、備え付けの風呂に入ろうと考えました。しかし、どうせなら大浴場に行こうと考え、妻や娘達を起こさないよう、そっと部屋を抜け出しました。
外はとても静かでした。3階に上がり男性用の脱衣場に行きます。中に入ると、カゴが6つほど埋まっていました。
ー私達の他にもいるのかな?
私は、何の疑問も抱かずに、服を脱ぎ、扉を開けました。そして、温泉につかろうと、浴場の中に入りました。ムワッとした心地よい空気が、私の身体を包みました。
中には誰もいません。
おそらく、他の人は露天風呂にでも入っているのでしょう。人間の声はなく、流れる水の音だけが聞こえます。
ー1人占めだ。
私は、何か特権を得たような気持ちになり、大声で歌いながら身体を洗いました。
ジャワジャワジャワ
シャワーの音。
汗と一緒に疲れも流します。
それから、暑い湯、緩い湯に浸かり楽園気分を味わいます。
ーここは楽園の果てだな
そう思いました。
さらにサウナに入り、水風呂に入ります。
それから、ジェットバスに入り、子供のようにジャブジャブと遊びました。少年に戻った気分でした。
お湯の中に頭を入れます。辺りが静かになります。胎児に戻った気分でした。
1分ほどたち、私はお湯から頭を出しました。
プハッ!
辺りは誰もいません。
ー変だな
6人ともまだ露天風呂に入っているのでしょうか。
私はドアを開けました。
目の前は、満天の星空でした。
白鳥座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ、そして天の川
その下は綺麗な石畳。いや、岩畳でしょうか。青いライトが辺りを照らし、何とも言えない幻想的な雰囲気を醸し出していました。
ーまるでスペースマウンテンだな
私はウキウキし始めました。
その時です。
「すごい筋肉ねえ。」
妻の声でした。
ここは、男性用の浴場です。私は耳を疑いました。
「本当。すごいわねえ。」
春子さんの声でした。
ー???
「触んないでくださいよ。」
若い男の声がします。
ーどういうことだ?
私は、構わず進みました。
その時です。
妻と春子さんが何人もの男や女とじゃれ合っているのが見えたのです。10人ほどはいたと思います。傍らには、娘達もいました。
男達はみな筋肉質でした。
これが、最初に私の目に焼き付いた光景です。
私は、驚いて岩陰に隠れました。
「本当にすごい。食べてしまいたいわあ。」
「本当ですか?」
「嘘よ。」
妻は、いつになくとろけた声で言います。原田さん親娘や娘達も、
「すごーい!」
と歓声を上げています。
ーくそくらえ!
私は、拳を握りしめて岩陰から出て、怒鳴りつけてやろうとしました。
その時です。
ぴゅうぴゅうと、涼しい風が前から吹きついてきました。非常に心地よい風でした。
「いやあ。バスタオルが!」
妻が胸に巻いていた真っ白なバスタオルが、湯の上をプカプカと浮いていました。私はどういうわけか恐ろしくなり、岩陰に身を隠しました。
そして、スッと頭を出しました。
妻の白い背中が見えました。その向こうには、黙り込んだ若い男達とクスクス笑っている娘達がいました。
原田さんは、目をたらんとさせながらニヤニヤとしています。
「私のも見る?」
原田さんはそう言うと、胸に巻いていたバスタオルを脱いだのです。
私は思わず、頭を隠しました。
頭を上げると、原田さんは、後ろを向き、背中だけが見えます。
何とも言えない殺伐とした雰囲気です。
ー??
しばらくして、男の1人が言いました。
「そ、そうだ。明日、サーフィンするから早く寝ないとな。おやすみなさい。」
そして立ち上がり、湯船から出ました。
ーやば。ここにいるのがバレる!
私は最初そう思いましたが、
ーいや、ここでしめてやろう
と考えました。
「ちょっと!」
原田さんが男の腕を掴みます。
「なに、誘ってきたのはあなた達の方よ。今頃になって逃げるの?」
「いやあ。明日早いんで。」
「大丈夫。気持ちよくしてあげるから。誰からいこうか?」
男達はザワザワとし始めました。
「加藤さん、いってくださいよ。熟女好きでしょ。」
「いやだよ。菊池君いけよ。」
「僕は、娘さんの方と。ゲッ!」
再び声が聞こえなくなりました。様子を見ようと頭を上げようとしましたが、怖くて上げられません。
再び、静寂が辺りを包みました。
しばらくすると、
「俺、いきます!」
と勢いよい声がします。
「中山さん。マジっすか!」
「いいわあ。その調子よ。私が手ほどきしてあげる。その代わり、ちゃんと奉仕してよ。」
「はい!」
しばらくすると、
ジュル!ジュル!ジュル!
という音が響いてきました。
「はあん!そうよ。その調子。」
原田さんの声です。
私はやっとのことで、頭を上げます。
やはり若者と原田さんが立ち抱き合いながらキスをしていました。
スレンダーな原田さんの身体ではなく、若い男の背中が見えました。
「そうよ。じゃあ先に私が奉仕してあげる。」
原田さんが座りました。
男の身体に隠れて見えませんでしたが、何をしようとしているのかは分かりました。しばらくすると、
クチュ!クチュ!チュパ!
クチュ!クチュ!チュパ!
という音がします。
「はあん。若いチンポは格別だわ。」
そして、また
クチュ!クチュ!チュパ!
と響いてきます。
つい1月前、丸の内で私の家族と原田さんの家族で食事をしていたことを思い出しました。あの時の上品な原田さん。唇の下のホクロがチャーミングでした。クラシックの話をしていたような気がします。
ー本当にあれが原田さん?
そう考えている間にも、音だけが響いています。
「さあ!帰りましょうか。邪魔しちゃ悪いし。」
「菊池君。逃げる気かしら。」
妻の声でした。
「いや、そう言うわけではないですけど。」
「じゃあ。私としよ。」
「お母さん達だけズルい。私達も。」
娘達の声もしました。
「加藤さん。相手してよ。」
上の娘の声でした。
普段は大人しい娘。彼氏がいた記憶もありません。その娘が、知らない男にあの行為をせがんでいる。
「私は、橋川さんと。」
下の娘の声でした。下の娘には同じサークルの彼氏がいるのを知っていました。実は1回会ったことがあり、彼はとても好青年で、話も合ったのです。2人は仲睦まじく、大学を卒業したら結婚するとのことでした。父親は娘の結婚を嫌がると言いますが、そんな気は少しもせずむしろ嬉しいとさえ思いました。
それなのに下の娘は、別の男と、それもさっき会ったばかりの男と、あの行為をしようとしているのです。
ーうちの娘にかぎって
そんな言葉が頭をよぎりました。
しかし、それをかき消すように、
クチュ!クチュ!チュパ!
「はあん!はあん!」
と言った声が鳴り響いてきました。
頭を上げると、やはりと思いました。5人の女が湯の中でしゃがんで、立っている5人の男の一物を美味しそうにしゃぶっている絵が見えました。ただ、1人の太った男だけが置いてけぼりをくらい、突っ立っていたのですが、むしろ安堵しているようでした。
お腹が弛んだその男は、
湯から上がり、スタスタと歩きました。
「僕。トイレ行ってきます。」
と言い訳めいた一人言を言いながら。
「田中君!」
原田さんの声です。
「はい?」
「逃げる気?」
「いやあ。そんな。トイレに行くだけですよ。」
「そう言いながら戻ってこないつもりでしょ。」
私はガクガクしながら身を隠しています。次にこんな声がしました。
「大丈夫。おしっこなら、私が飲んであげるから。その代わり私のも飲みなさいよ。」
世界が崩れていく音がしました。
「はい。」
あとには、か弱い男の声がしました。
「寝転がりなさい。早く!」
しばらくすると、
「おおん!おおん!」
という低い声がしました。
私は恐る恐る頭を上げました。すると、その上には、丸太のように寝転がった男とその顔の上に跨っている女の映像が。女の身体は痩せてはいましたが、やや皺が入りそれが余計にエロチックさを際立たせていました。濡れた髪もシルクのように綺麗でした。男の一物は真っ直ぐに立っていました。物凄く大きかったのですが、雄々しくは感じられず、むしろ大きいが故に滑稽に見えました。
しかし、それ以上に踊いたのは女の背中に掘られてた大きなアートでした。
それは、女が男の股の上に跨って性交している絵だったのです。白と黒で大まかに描かれた絵。写実的ではないのですが、それ故に余計にリアルに見えました。絵の女の目は不気味に見えました。
そして、その絵の持ち主も男に跨っていました。
私はただ何も言えませんでした。
「おおん!おおん!そうよ。もっと舐めてえ!」
私はその乱れた女の姿にあっけにとられ、その女の名前が何なのかも忘れていました。
「おお!マン汁もおしっこもでるわあ!全部飲み干してえ!」
先程までピストン運転していた女の身体。それが急に動かなくなりました。しばらくは、音も聞こえませんでした。
哀れな男の顔の上では何がおきているのでしょう!
5分ほどすると、女の身体がヒクッヒクッと動き始めました。そうかと思うと、身体を徐々に仰け反らせてきました。そして男の身体の上に仰向けになりました。頭を逆さまにしながら。頭は男の足と足の間の岩の上に着地しました。逆さになった顔が見えてきます。
顔は当然あの原田さんの顔のはずです。しかし、別人の顔でした。いや、化け物の顔でした。
ー何じゃこりゃ
ホラー映画を見ているようです。
よく見ると確かに原田さんの顔です。しかし、原田さんの顔ではないのです。
その顔の目は白く濁り、唇は赤く不気味に光りながら、ニヤリニヤリとしなかまらヒクついていました。その両端からはドロドロとした白濁した粘液が、歪んだ頬を伝い落ちています。白い肌、シルクのような髪が妙なコントラストをなし、逆に不気味さを際立たせていました。
「もう。人の顔の上でオナニーしないでくださいよお。それに何でアソコにピアス沢山つけるんですかあ。」
太った男の声でした。
楽園は地獄に変わったのです。
しかし、それはまだ序の口でした。