夏の真っ盛りでその日も日差しが強かった。告別式は正午。直属ではなかったが職場の若い人ががんで亡くなった。喪主は妻だったが結婚してまだ2年とのことだった。
目立たない眼鏡をかけていてポニテで束ねた髪。うなじには汗がにじみハンカチでそれをそっとぬぐった。
葬儀中流れたのは故人が好きだったという歌。
カラオケ店でその歌をリクエスト。といっても一人だったのだが。
5分程度の曲だったが入り際から音がゆがんだ。聞いていくうちボーカルが入るとそれは苦悶の叫びに変わった。
しばらく歌うこともできず聞いていたが回復しないので中止とした。
此度の臨時休業の間こんなうわさが誰ということもなく流れた。
「あそこは出るよ。丑三つ時隣の部屋に誰かいて寒気がした」
それ、もしかして私じゃないですか。
「二階にいるよ」
その店に二階はなかった。
何かの勘違いだとは思うがどこかに異界への扉があるのかもしれなかった。
高校時代の先輩でこの店のスタッフだった由佳さん。デュエットしてもらったのはたしか二階の部屋だった。
何はともあれ塩を盛っておいてください。