『偽愛/博愛/狂愛——雫の紅、夜に満つ』


1文字数:5133

 ———日は呑み込まれ。夜は、我がものとこそ思う。昔日の唱に露とも違わざる望月は、我が頭上にて、やはり虧けたる事なく、狂々廻る。イザナギが眼のかくたる如し慈虐の熒。

 自室にて、今夜も今夜とて、自慰に耽る。イヤホンをし、部屋の照明を落とし、割かし完璧とも言える状況で、アダルトビデオの鑑賞を開始した。凌辱モノだった。女優の嫌がる顔、そして、歪み歪んで悦楽に死ぬ貌。或いは、悲鳴と慟哭が嬌声に堕ちた怨念歌も、総て、俺をエクスタシーへ駆り立てる。まるで、追われる殺人犯の圧迫される心臓が移植されたかの様。
 故に、と言うべきか。
 故に、としか言えないのか。
 俺の世界は、その刻、ただ「其処」にしかなった———そう、故に。来訪者が堂々と世界に闖入していった事など、眼中どころか、脳内にすら、認識を見逃した。これが第1の失策だった。
「何してんの、アンタ?」
 不意に。声が背中に刺さる。否、〝刺さった〟と気づく迄、時間を要した。……先ず、背後の侵入者が居たという事。次に、背後の容疑者は誰かという事。最後に、背後の発声者は何故殺意を向けているのかという事。
「ねぇ。何してんのって訊いているのよ、莫迦兄貴!」
 俺は疑問を持った。
 之を見て、「何」しているのか、理解らないのか。開き直れば、「オナニーだよ、オナ二—。お前も毎晩、ヤってんだろーが。声、抑えろよ」とか、ぶっちゃけ申すが。
 ———そうじゃなくて、と訂正する。
「なんで、お前が俺の部屋に居るんだよ?」
「ッ! なんで? じゃないわよッ! 
 てゆーか、アンタこそ、なんで、妹の前で、それを続けんのよ! 莫迦!? 変態!?」
 酷い言われ様である。
 それ以前に、何を止めろ、と言ったのだろう? よく聞こえなかったようだ。イヤホンの起因(せい)かな、と思うので、一言。
「あー、悪い。聞こえなかった。プリーズ・セイ・ラウドリー、オーケー? 主語(S)が無くね?」
「だ・か・ら! オナニーを辞めろって言ってんのよ!」
 あーやべ(別に矢部さんに挨拶した訳で無い)。
 つーか、俺、妹と会話しながら、オナってたのかよ! と。超ダメ人間じゃん! 割と可愛い顔してるとか言ってもなぁ。因みにTV見ない人なので、芸能人には例えられません。あしからず。
 ……………………………………………………………………………あ。あー、マイクテストぉー、マイクテストぉー? えー、既に皆さん御解りの通り、俺はダメ人間です。ぶっちゃけ、カッコつけた所で(括弧をつけた所で、って誤字った)、以下に語るコトが、ダメ人間なんで、救われねー、つまり、もう、「地」だの「素」だので行こう(正に移行)かと。よろ~。
 ———で。ハナシは戻って、妹とトーキンぐぅ! 古いかな……。
「分かった。超OK、イエッサー」
「サー(SIR)は男だけでしょ!」
 さり気、知的な雰囲気を醸す妹。でも、「マム」とか言ったら怒んだろーなぁ。
「で、何の用?」
「え。あ、お母さんが、仕事で行くって。それで、帰ってこないから、明日の食事代渡してって」
 余り詳しく言わないけど、母は俺ら兄妹が私立に進学したから、夜の自給の高いパートをやっている。息子としては、申し訳なさ過ぎるけど。
 はい、と妹が金を渡す。はい、と俺は手を差し出す。
「って、なんで、そっちの汚い手を出すのよ!?」
 またシクった。そして、椅子を蹴られた。因みに、椅子はキャスター付きでくるりと回るヤツ。結果は言うまでも無く———、
「どぉ、お、あっ!」
 椅子から落ち、転ぶ。おまけに、壁にリフレクトした椅子はKAMIKAZEの勢いでやって来た……! 
「ぐ——う!」
「は!」
 トドメに、妹の蹴り一発! 
「げゃ!」
「ブルータス、お前もか」
 ガク、と沈む。何に? 下は床。沈めねーじゃん、痛い! 喰いこんどる、ブルータスじゃなくてコンドルなのか、お前!?メリこんどる! うそ、頭割れます。確実に貴女の足は胡桃割機です、いやマジで! やばい、寧ろプレス機。あ、マジでこいつ、俺をゴミだと思ってやがる! クソ、俺はアルミ缶じゃない、あんなに楽にべしゃりとはいかない! スチール缶位には耐える! スターンダーップ、俺! (*STAND(スタンド)は「立つ」以外も「耐える」という意味がありまっくす)
「最近は、ブルートゥスって言うの、知らないの?」
 又もや、蘊蓄を語る妹。だが、ミシミシは止まらない。
「細菌は、ブルータスって言うの、知らなかったな」
 次第に、本性を現す妹。より、ミシミシは強くなる。
「違げーよ! それは、英語読みか、———ぶっ!」
 やはり、容赦の無い妹。南無、ミシミシは口封じだった。
 突っ込みを入れようとした俺に容赦の無い突っ込みが入る。無論、こっちはボディ・ラングエージだ。つーか、マジで、口に足が突っ込んでる! あー、なんつーの、イラマチオってこんな感じなんかな? あの女優、結構ゲホってもんな、あれ? 俺ヤバくね? 
 何がヤバいか。
 それは、今までこれだけの実況を咬ました所で、時間にして数分。勃起→半勃→妄想→再度勃起、之、男ノ道理アルネ! ……しかし、だ。これが「ヤバい」訳では無い。
 ———そう。この状態が妹に露見(バレ)るコトなのだ!
 踏まれて勃起とか、変態だよなー。
 どうする、どうする俺!? どっかのCMじみてきたな。TVじゃねーんだよ。ましてや、AVでもねー。踏まれ勃ちとか、足フェチじゃん。あー、さっきまで凌辱モノ見てたのになー。足だって、舐め回して……———ぴきーん☆ ピキ—ンですよ! 閃いた! なのに、誤植って「鮃(ヒラメ)居た!」になったのですよ。空し~。
 ———で、ウサギにもツノが生えた。いや、正しくは、「兎にも角にも」。
 反撃だ。
 つまり、俺が妹の足を凌辱すれば、それで勃ったとしても、まだ、変態の格は下がるだろう。
 行動開始! 
急がば回れ、である。3回回ってワンである。3=1ってクレイジーじゃん。嘘です、余談です。
じゅるり。———我が舌先は蛇となりぬれば。
「ひゃ———!?」
べちゃり。———蛇は地を這うモノであらば。
「な、な何してる、の!?」
ぐりゃり。———蛇が毒牙に掛りし之廻らば。
「え、なんで、なんで、なめてひるの!?」
にやり。———我が策謀叶いしなり。
足裏は言うに及ばず、指の間、爪の間まで、俺の唾液で汚す。汙す。穢す。
「ホントに止め、てよ、変態!」
 そういって彼女は、後ずさり、俺の足で転んだ。———チャンス到来。ピンチは最大のチャンスなのだ。
「そう言えばさ、さっき途中で止められて、イってないんだよね」
これ、脅し文句なり。
「足———脚舐められて、ひゃんひゃんいってる仔には、御仕置きが必要かな?」
無論、感じていた訳ではあるまい。大方、くすぐったかったのだろう。だが、責める武器は多い方が戦には良い。
ふふふ。テンション上がって来たZE! 超ノース。カモ—ン、北極! うん、俺もよくわかんねー。でも、叫びたい、ひゃっほーう! 
「………………ねぇ。ちょっと」
はい? 何だろう? え、妹も欲情したのか? 
「何だよ———」
絶句。零言絶句。五言とか七言どころじゃねー。一難去って又一難。
告白すれば、恥ずかしいコトだが。倒れた妹は、よりによって俺の上に倒れたのだ。要するに、ピンチさってねー。顔がピーチ色になってんじゃろーな、俺。つか、出火しそう。
「のた打ち回ったの見逃すとしても。
 ———何よ、コレ!」
文脈上、コレなるモノが何かは、御解りだろう。なんつーか、余計なコトして大きくしたみたいだ。コレ的にも、問題的にも。
「妹で勃起するなんて、サイテ—」
ああ。解っているとも、今だって、「(処女膜を)裂いてー(!)」って聞こえたもん。どんなフィルタだよ、マイ・ブレイン! 
「出したかったんしょ? 出せば? 
でも。それしたら、もう兄じゃないよね。何、鬼? 鬼畜? 畜生? 豚? 肉? メタボオヤジ? 要するに、奴隷じゃないの?」
よく解らない理論展開についていけないが、血は争えないという事か、お前も充分壊れてるよ! 兄として哀しい限りだが。
「で、どぉするの? 奴隷ちゃんになるの? それとも捕虜にでもなるの?」
「同じ事じゃねーか、それ!」
「え? 奴隷がいいの? 変態だぁ、あはっ!」
形勢が逆転して久しいが、今積み(チェックメイト)だったのかもしれぬ。だとすれば、コイツは女王(クイーン)か。
つんつん、と亀頭を叩く。それは、俺の心のドアを敲いた。
「あ。」
句読点が付く位に膠着した。
ペニスには先ほどからのと、今ので、先走り汁が関を切ったかの様に溢れだしていたのだから。これで、巻き返そう!
「でもぉ~。これって、感じているってコトだよねぇ?」
無敵だった。アルマダだった。
「く、***!」
苦悶と同時に、妹の名を叫ぶ。今さらながら、妹の名を言っていない事実に気付く。本名をいったら打っ殺されるので、仮名をば。『アイ』として於くか。
「あ、アイ、やめろ!」
「えぇ~、今さらぁ。誘って来たの〝お兄ちゃん〟でしょぉ?」
———! こういう時に「お兄ちゃん」と言うのは、核兵器だ。国際法規で規制してほしい。こう、ふわっと包括的に。
「あ! 今びっくって啼いたよ? さっきよりも、びくびく、先走ってるし」
悔しいが、
「直で触るの厳しいかな。じゃ———」
気持ちいい。
言うなり、短パンを脱いで、俺に跨る。下着を挟んで、違いの性器が触れ合う。
「あ、あ」
快感に口を塞がれる。
「ひゃ、あん、ど、どぉ?」
アイは快感に饒舌を与えれたのか、俺に感想を訊く。
正直、気持ちいいだけじゃ済まなかった。ヤバい。直に触れないモドカシサが焦燥を生み、快感を積む。ぶっちゃけ、その気になれば、射精出来そうだった。———だが、それは悔しいから、
「は、まだ、こんなんじゃ、イケないな。つーか、アイの方が、ヨガってんじゃん」
と、虚勢を張った。
「ヨガって、なんか、い、ないもん! はぁ、ああ、あ」
と、こちらも虚勢を張っているようだ。———我慢比べと行こうか。
「あ、はあんっ! はぁひゃ、ああぁ———、」
アイの動きは単調だった。ただ、前後に擦るだけだった。しかし、これだけでも相当良かった。それは、下着のザラザラがカリ首を引っかけて、その下の肉を押しつけるからだ。
「あう、ん、ふぅ、えいっ、ぁ。こ。れ、ぃ———」
 喘ぎに何か聞えたが、それは台風の中の叫びのようで。俺は、無謀にも救助に向かう一般人の足掻きを。
「え? ひゃああ!? う、もう、動いちゃ、動いちゃダメなんだかりゃぁ~」
「だって……」
俺は逡巡した。言うか、言うまいかを。だが、本当にしたのか、疑わしい程に口は開いた。
「アイが、アイが気持ちいい、から……!」
「しょ、しょおがないなぁ、あ、んふぅ。あ、はあぁああ! あ———!」
「すごい、すごいよぉ、おにひひゃん!」
「ああん! もっと、みょと、おおぉ———あ、あはぁんふああぁあああああ!!」
アイが呂律が回らないのか、俺の耳か脳が壊れているのか———それは瑣末なコトに成り下がる。激しく、唯、激しく、それだけを!
「ぐ、———アイ、ぁあ、もうイキソウダ!」
「あ、あん、あた、私も、ひきそう! イキそう! あ、ああん、ダメ、だめ、んうひゃ! らめぇイク、イク、あああ—————ぁンンンンンンンゥゥン!!!」
———びくん。びく、びく、びく、びくん! 
アイの絶頂に追随する形で俺も射精した。
「ああ、ひってるぅ? お兄ちゃん、イってる?」
「ああ。こんなに……」
「ホントだぁ。こんなに、たくさん、」
「素股でこんなに気持ちいいなら、膣内は、もっとイイのかな、お兄ちゃん」
———びくん! 一度も収束するコト無く再び滾る我が肉棒。
俺、答えて曰く———
「うん。もっと良くなる。もっとアイを感じていられる」
「じゃ———お兄ちゃん。私の、アイの処女(初めて)もらってくれる……?」
「俺で良ければ」
最初の戦染みた剣幕は失せ、二人は行為を始めて———。

(続く)

All written by RASETSU. 2010.9.9(THU).
RASETSU is author. And all rights received.
This story is fiction that it base on the fact.

 

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