その年の八月。
旧盆だった。
こー〇ん狙いとは思われたくなかったが、近くに回るところがあり、るみさんの家にも寄った。
「お線香上げさせてください」
「急なことで」
葬儀に出られなかったことを詫びた。
「主人が一番驚いていると思いますよ」
といったきり、言葉が続かないるみさん。
テーブルの隅で一人手酌でビールを飲んでいた人も
「それじゃこれで」
とお引き取りになった。
台所で何かこちらをうかがうように見ていた故人の母親か(・・?)
も別室に引き取ってしまった。
「えっとね」
るみさんが重い口を開いたとき、サラダせんべいの封を切って半かけを口に入れた。
ぱりぱり。
「不妊治療をしていて、冷凍保存してあった精子をね、体外受精するところだったの」
ぱりぱりぱり。
「でも、主人がね、・・・」
噛み終わっていたせんべいをティッシュに戻した。
ご主人がお亡くなりになられたので、体外受精は取りやめになった。
「私で抜いてくれますか」
お茶を飲もうとして、吐き出した。
「むりよね」
ほっとした。
「危ない人って聞いていたけど、ちっとも危なくないのね」
「じゃ、わたしはこれで」
一年後理由はわからないが、るみさんもお亡くなりになられたときいた。
10年前のことですが、文中不適切な表現または不快になられた方に対しましては、
衷心よりお詫びいたします。
百年の女 4
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百年の女 3
1文字数:645
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