百年の女 4


前回:  百年の女 3

1文字数:645

 その年の八月。
 旧盆だった。
 こー〇ん狙いとは思われたくなかったが、近くに回るところがあり、るみさんの家にも寄った。
 「お線香上げさせてください」
 「急なことで」
 葬儀に出られなかったことを詫びた。
 「主人が一番驚いていると思いますよ」
 といったきり、言葉が続かないるみさん。
 テーブルの隅で一人手酌でビールを飲んでいた人も
 「それじゃこれで」
 とお引き取りになった。
 台所で何かこちらをうかがうように見ていた故人の母親か(・・?)
も別室に引き取ってしまった。
 「えっとね」
 るみさんが重い口を開いたとき、サラダせんべいの封を切って半かけを口に入れた。
 ぱりぱり。
 「不妊治療をしていて、冷凍保存してあった精子をね、体外受精するところだったの」
 ぱりぱりぱり。
 「でも、主人がね、・・・」
 噛み終わっていたせんべいをティッシュに戻した。
 ご主人がお亡くなりになられたので、体外受精は取りやめになった。
 「私で抜いてくれますか」
 お茶を飲もうとして、吐き出した。
 「むりよね」
 ほっとした。
 「危ない人って聞いていたけど、ちっとも危なくないのね」
 「じゃ、わたしはこれで」
 
 一年後理由はわからないが、るみさんもお亡くなりになられたときいた。
 
 10年前のことですが、文中不適切な表現または不快になられた方に対しましては、
衷心よりお詫びいたします。
 
 
 

 

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