「春色の列車で旅がしたいわ」
電話のベルが鳴りました。
「はい、モシモシ探偵社レナです」
春先は電話が多いわね。
「白い小型のハイブリッド(ってどこにでもあるわね)、ですね。・・・あ~。みんなうるさい!」
Hさんは年配の方でしたが、趣味は変装、いや女装でした。
「Hさん。仕事です。いつものラブホで張り込みよ」
「あ、私もいっしょに行きます。レスビアンカップルのノリで」
「普通のカップルってことでいいじゃないか。着替えるのめんどくさいし」
白い小型のハイブリッドはホテルの駐車場に停まっていました。
近くにこちらの車を停め二人が出てくるのを待ちます。
「おつきあいをしている女性が男とラブホに入っていった」
女性が出てきました。
黒いロングコートにベージュのニット。
カメラのシャッターを切りまくります。
すると、ほどなく太った男が息を切らせて階段を下りてきました。
女性の運転で二人は立ち去りました。
「今日は夕方からデートの約束なのに、真昼間からラブホとは。なんとなくほかの男のにおいというか、仕込みというか、は感じていたんですがね」
写真の男はわからない。クライアントの男性は途方に暮れるばかりです。
「調査を続けますか」
「いや。この辺が潮時でしょう」
「そうですか」
発展性のない話をしてしまいました。