死の恐怖とエロティシィズム


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ヒトのメスは、オスから強い性的刺激を受けることで、交尾排卵して妊娠することができた。すなわち、強い性的刺激があれば、オスは射精することができ、メスは、オルガスムスに達することで、下垂体からLH(黄体形成ホルモン)サージを引き起こし、排卵し、妊娠することができる。
    
そうした強い性的刺激は、日常的な倦怠を打ち破る非日常的なエロティシィズムでなければならない。そして、エロティシィズムの炎を燃え上がらせるのは、非日常的な死の恐怖である。
     
竹内久美子はこんな例を挙げている。
     
第一次世界大戦および第二次世界大戦での調査によると、兵士たちに1日程度の休暇を与えて帰郷させると、排卵期ではない、つまり、本来妊娠可能でない状態の女性までが妊娠した。また、アメリカでは、パール・ハーバーから268日経った後、出産ラッシュがあった。このことは、パール・ハーバーのニュースがアメリカに流れた日、セックスした女性が非常に高い確率で妊娠したということである。
     
夫が戦場に出かける時、妻は夫とのセックスはこれが最後になるのではないかという不安に駆られる。なぜ、そうした不安があると妊娠しやすくなるのか、竹内にはわからない。興奮すると女は排卵する。しかしそれがどういう意味を持つのか、まだ定かではない。
     
しかし、有性生殖の本来の機能が生存を脅かすリスクの増大への対処であることを考えれば、なぜ死の危険が生殖機能を向上させるのかは容易に理解できる。すなわち、種の存続が危なくなると、その種は、様々な子供を作ることで、種全体の絶滅を阻止しようとする。死の危機が迫ると妊娠率が向上するということは、妊娠率を向上させるには死の危険を作り出せばよいということである。
      
実際、交尾排卵動物の中には、この手法を実践している動物もいる。例えば、ミンクのオスは、メスの首筋を噛み、血をほとばしらせることでメスを興奮させ、排卵させ、妊娠させる。人間の場合でも、強姦や不倫といった、法や道徳を破るセックスの方が、合法的な夫婦どうしの日常的なセックスよりも妊娠率が高い。

 

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