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初めて、本気で人を殺したいと思った。


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初めて、本気で人を殺したいと思った。

つい先日、10月1日のことだ。
俺の勤める会社では、半期に一度、全国の支店に散っている役付き社員が東京の本社に集められ、決起集会が開かれる。
普段は会えない地方勤務の同期と顔を合わせられる、数少ない機会だ。集会が終われば、皆で飲もうという話になるのは、もはや恒例行事だった。

社会人になって8年目。同期とはいえ、出世のスピードには差が生まれる。会長の親族である清水は本部の副部長、俺はようやく地方支店の課長補佐。そこには歴然とした立場の違いがあった。
それでも、ひとたび酒の席に着けば、役職は関係ない。そんな暗黙のルールのもと、昔話に花を咲かせ、酒は和やかに進んでいたはずだった。

宴もたけなわ。俺は次の日の仕事も考え、少し早めに切り上げることにした。
「悪い!そろそろ帰るわ」
席を立つと、「美人の奥さんが待ってる奴は違うなー!」と野次が飛ぶ。
「そんなことないって」
満更でもない気持ちで、軽く手を上げて応えた、その時だった。

「なあ、俺の手垢が付いた体の味は、どうだ?」

ニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべ、清水が俺を見ていた。
その一言で、アルコールで火照っていた思考が、急速に冷却されていくのが分かった。
俺の妻、由佳は元々同期で、社内でも有名な美人だった。俺たちの結婚は社内恋愛の末だったから、この場にいる全員が彼女のことを知っている。清水も、由佳に言い寄っていた大勢のうちの一人だったが、付き合っていたなどという話は聞いたことがない。
「……お前、ふざけた嘘つくんじゃねえぞ」
腹の底から絞り出した声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。酒の席だ、無視すればよかった。だが、できなかった。

「嘘だと思うなら、今から奥さんに電話して確認しろよ!」
清水が挑発的に言い放つ。周りの同期たちも、人気者だった由佳を射止めた俺への嫉妬があったのだろう。誰も俺をかばうことなく、「電話してみろよ!」と囃し立て始めた。
完全に、悪意に満ちたエンターテイメントだった。

逃げ場を失った俺は、渋々スマートフォンを取り出し、由佳に電話をかけた。
『どうしたの、こんな時間に?』
訝しがる声に、俺は単刀直入に聞いた。
「……なあ、清水と付き合ってたこと、あるのか?」
『え?……なんで、そんなこと聞くの?』
なぜ、すぐに否定しない?胸のざわめきが大きくなる。俺が答えに詰まっていると、突然、清水にスマホをひったくられた。

「こんばんはぁ、由佳ちゃんお久しぶり~(笑)。相変わらず声も可愛いね。でも、あの時の声はもっと可愛かったのに、忘れちゃった?」
「おい、返せ!」
俺が手を伸ばすのを、周りの同期が抑える。
「忘れられてたら、僕ちゃん悲しいなぁ。……覚えてるよね?」
一瞬の沈黙の後、清水は満足げに頷いた。
「良かった良かった。覚えてるってさw。ほら、返すよ。うるせーなw」

投げ返されたスマホを耳に当てる。聞こえてきたのは、由佳の、嗚咽を堪える声だった。
理由を問う必要はなかった。
「……悪かった」
それだけ言って、俺は電話を切った。

「な?言っただろ?」
清水の勝ち誇った顔。それに追従する同期たちの下卑た笑顔。全てが憎くて仕方がなかった。
「マジかよ、あの由佳ちゃんとやってたのか!」
「コソコソしやがって、羨ましい奴だ!」

「まあな。入社してすぐだったかな」
清水は得意げに続ける。
「4月の最初の週にあった飲み会、覚えてるだろ?あの後、送って行って、そのまま美味しく頂きましたw」
「マジで!?その後、全然普通だったじゃん!」
「『絶対に言わないで』なんて、おっきな目に涙ためて頼まれたらさあ、男なら誰だって言うこと聞いちゃうだろ?w」

聞きたくないのに、足が縫い付けられたように動かない。
「何度か口がムズムズしたけどな。その度に非常階段でしゃぶらせて我慢したよw」
「マジか!?研修中にそんなことしてたんか!」
「社内恋愛の醍醐味だろw なあ、由佳ちゃん、けっこうフェラテクあるだろ?あれ、俺が直伝したやつだからなw」

下劣な言葉が、聖域だったはずの妻との記憶を汚していく。
「東北出身だけあって、肌も真っ白ですべすべなんだよ。ああ、そうだ!お前、泡踊りさせてるか?最高に気持ちいいぞ、由佳の泡踊りは」
「壺洗いまで、ちゃんと仕込んどいたから。なあ、指立てると由佳の奴、自分から跨ってマ〇コに入れてくれるだろ?」

もう限界だった。
「頼む……もう、やめてくれ……」
情けなくも、俺はそう言って泣きついた。

「なんだよ、いいじゃんか。綺麗で清楚な自慢の奥さんだろ?お前らも聞きたいよな?同期のアイドルだったんだからさ」
「聞きたーい!」
「俺はもっと由佳ちゃんの体のことが知りたいな!」
狂った空間。俺は黙って鞄を掴み、席を立った。

店を出る間際、一際大きな笑い声が背中に突き刺さった。
「マジで?ア〇ル舐めるのが好きなの?あんな清楚な顔してか~?完全な詐欺じゃんw」
俺は聞こえないふりをして、夜の街へ逃げ出した。

つづく 出展:http://misa770.blog.2nt.com/

どうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
重い足を引きずって玄関のドアを開けると、由佳がリビングのソファで、俺を待っていた。俺の顔を見るなり、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
そして、その夜、由佳は全てを話してくれた。8年間、彼女が一人で抱え込んできた、地獄のような秘密を。

入社直後、初めての飲み会。由佳は、仲の良かった女性の同期と清水の3人で二次会へ行った。
その女性とは社宅の最寄り駅が一つ違いだったため、一緒に帰るつもりで付き合っていた。だが、由佳がトイレから戻ると、その女性の姿はなく、清水と二人きりになっていたという。
東北の大学を卒業し、地元採用された由佳にとって、研修期間中の東京は、ほとんど知らない土地だった。終電も近い時間で、清水に「送る」と言われ、断り切れなかった。
借り上げの安アパートの前で別れの挨拶を交わし、由佳は心から安堵した。しかし、鍵を開けて部屋に入ろうとした瞬間、背後から「トイレ貸して!もう我慢できない!」と叫ばれ、強引に部屋の中へ押し入られた。

「あとは、よく聞く話と同じ……教科書通りのレイプだった」
由佳は、遠い目をして呟いた。
終わった後、清水は「好きだったんだ」と泣いて謝ったかと思えば、次の瞬間には隠し撮りした裸の写真を突きつけ、「バラされたくなかったら言うことを聞け」と怒鳴った。
恐怖と絶望で、もうどうでもよくなってしまった、と。
その日から、なし崩し的に関係を強要され続けた。怖くて、誰にも言えなかった。ただひたすら、この地獄のような研修期間が終わり、無事に東北へ帰ることだけを願っていた、と。

許せなかった。由佳を無理やり犯し、心に深い傷を負わせ、その上であんな……元彼気取りで、同期たちの前で彼女の痴態を面白おかしく語った清水が、どうしても許せなかった。
俺は、泣いて制止する由佳を振り払い、清水に電話をかけた。
「会って話がしたい」
意外にも、清水はあっさりと了承した。今すぐその横っ面に拳を叩き込みたかったが、夜も遅い。翌日の仕事終わりに会う約束をした。
「居酒屋でする話じゃない。どこか静かな場所がいい」
俺がそう言うと、清水は横浜のホテルを提案してきた。

翌朝、不安そうに俺を見つめる由佳の顔を見るのが辛かった。
一晩中泣き続けたのだろう。目は真っ赤に腫れ上がっている。
「お願いだから、危ないことはしないでね」
「分かってる。一発殴る。それだけで終わらせる」
「馬鹿なことはやめて!あなたに何かあったら、どうするの!」
「大丈夫だよ」
俺は、その悲痛な顔から逃げるように、家を飛び出した。

仕事など、到底手につかなかった。定時になると同時に支店を出て、新幹線に乗り込む。
車窓を流れる景色をぼんやりと眺めていると、由佳からメールが届いた。
『危ないことは絶対にしないで。ホテルを出たら、必ず電話してね』
『分かった』とだけ返し、俺はスマホに保存されている写真のフォルダを開いた。
そこには、由佳の写真が何枚もあった。なぜだろう。写真の中の彼女が、妙に遠い存在に感じられた。自分の妻なのに、まるで他人のように客観的に眺めてしまう。
それでも、綺麗だと思った。どの写真も薄化粧なのに、透き通るように肌が白い。くっきりと形の良い眉。長く濃いまつ毛に縁取られた瞳は、大きく黒目がちだ。それとは対照的に、すっと通った鼻筋と上品な唇は、奥ゆかしく小さい。

『非常階段でしゃぶらせて我慢したよw』
『最高に気持ちいいぞ、由佳の泡踊り』

不意に、清水の下品な言葉が脳内で再生される。
由佳が、あの小さな唇をすぼめて清水の股間に顔をうずめる姿。体を泡まみれにして、男に奉仕する姿。悍ましい妄想が、次々と浮かんでは消えた。
改めて、怒りが込み上げてくる。
ホテルに着くと、メールで指定された部屋へ直接向かった。約束では、着いたら電話をすることになっていた。だが、ロビーで鉢合わせでもして、人前で殴ってしまえば大ごとになる。それほど、俺の体は怒りで震えていた。
部屋の前に立ち、一つ深呼吸をしてから、チャイムを鳴らした。

ドアはすぐに開いた。
そこに立つ清水の、ふてぶてしい顔を見た瞬間、俺の中で何かが切れた。
考えるより先に、右の拳が奴の顔面を捉えていた。清水は顔を抑え、部屋の中へよろめく。俺は間髪入れずに追いかけ、襟首を掴んで引き寄せると、腹に二発目の拳をめり込ませた。
三発目を叩き込もうとした、その瞬間。背後から伸びてきた腕に手首を掴まれ、ありえない力で捩じ上げられた。
「ぐっ……!」
振り返るまでもない。清水以外にも、誰かいるのだ。
「いってぇ……。一発は予想してたけど、二発目は予定外だったな」
口元から血を拭いながら、清水が笑う。
「放せ!まだ気が済まないんだよ、放せ!」
俺は必死に暴れたが、背後の男の力は異常に強く、びくともしない。やがて、捩じ上げられた手首に、ガチャリと冷たい金属の感触がした。手錠だった。
あっという間に、もう片方の腕も後ろに回され、手錠をかけられる。

「お前ら、絶対に手は出すなよ。足もダメだぞ」
「はい、分かってます」
「清水さん、痛そうっすねw 木島、そいつ暴れてるから足も塞いじまえ」
もう一人いるのか。木島?佐藤?誰なんだこいつらは。
混乱する俺に、清水が種明かしをする。
「ああ、こいつら俺の部下。刑事じゃないから安心しろ。ただな、現行犯なら一般人でも逮捕できるって、知ってるよな?ああ怖かった、殺されるかと思ったよw」
言いながら、清水は俺のジャケットの内ポケットからスマホを抜き取った。
「じゃべると痛えな、口の中が切れてるわ」
そう呟きながら、清水は俺のスマホでどこかに電話をかけ始めた。

「残念w 俺だよ」
電話の相手は、由佳だった。
「ああ、旦那ならここにいるよ。ほら」
スマホが、俺の耳に押し付けられる。
『もしもし、あなた!?あなたなの!?』
「……ああ、俺だ」
『よかった、無事なのね!』
「ああ……」
「はい、ここまでな」
すぐにスマホは離され、木島と呼ばれた大男が持ってきたガムテープで、俺の口は乱暴に塞がれた。

「お前の旦那にな、いきなり殴られてさあ。傷害事件の現行犯で、俺たちが逮捕したんだわ」
「……」
「まあまあ、落ち着いて話を聞けよ。警察に突き出してもいいんだが……同期のよしみで、今回は許してやろうと思う。だからさ、旦那を迎えに来てやってくれよ」
「……」
「そう、横浜。近くまで来たら、こいつの携帯に電話して。じゃあな。まあ、急がなくていいから、気をつけて来いよ」
電話を切った清水は、部下二人に、悪魔のような笑みを向けた。
「来るってさw」
「おお!マジっすか!」
「こいつは、どうします?」
「向こうの部屋に転がしとけ」

つづく 出展:http://misa770.blog.2nt.com/

 

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みんなのコメント

1 名前:名無しさん2025年12月21日(日) 00時17分52秒

胸糞悪いしここでするような話でもないからつまらない

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