真夏の夜の夢[12]


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「いくよ」、そう言うと私はマサルの部屋のドアノブに手を掛けた。ドアからカチャっという小さな
音が鳴る。私はミサキと眼を合わせる。ミサキの満面の笑みに私も思わずにやけてしまう。二人でわ
ずかに開いた隙間から部屋を覗くと、オレンジの豆電球が薄らと部屋を照らしていた。ベッドの上で
緑の掛け布団を抱くように寝ているマサルの背中が見える。机には夏休みの宿題か何かが山のように
積まれ、その横に学生鞄がくたびれたように口を開けたまま置かれている。音が鳴らないように慎重
にドアを押し開け、人が通れるだけの隙間をつくった。なんだかスパイにでもなった気分だ。
「おねえちゃん、マサル、パンツ一枚で寝てるよ」、ミサキは小声で言った。
「好都合ね」、私はミサキにと言うよりも自分に言い聞かせた。

私たちがスッと隙間から入り込むと、ミサキがドアをやさしく閉める。姉妹の連携は抜群と言える。
マサルの部屋の中は男の部屋の匂いってわけではないが、ムシムシする熱気が籠っていて、どこか私
をさらに興奮させる匂いがした。というのもその日はクーラーがついていなかったのだ。部屋の隅に
は泥だらけのスパイクが無造作に置かれ、ベッドの下には脱ぎ捨てられたハーフパンツがだらんとし
かれている。この子、寝ながら脱いだのかしら、そう思っているとミサキはすでにベッドの方に一歩
ずつ近づきだしていた。その繊細な足取りを見ていると、まるで地面にわなでもしかけてあるのかと
思ってしまうほどだ。私もこの小さな水兵の続き、慎重に歩み始めた。

 

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