十二 夫婦の契り その一
それから夜までの時間、私は何も手につかなった。
早く夜になって寝床に入ることばかり夢想して体が熱くなっていた。
私はもうすっかり頭に血が上っていたのである。
その夜、風呂場でいつものように私が久を抱きしめようとすると、
「若さあ、後でぇ、寝床の中でぇきっちり致しましょうがねぇ。」
と、すっと身を交わして逃げられてしまった。
私は、一瞬、久が昼間のことで腹を立てているのかと勘違いして悲しくなったほどだった。仕方なく逸り立つ気持ちを抑えて、風呂から上がると、寝床で久を待ち構えた。
久はいっこうに寝床へやってこなかった。
じれて何度か呼んだが、
「若さあ、ちっとぉ待って下さえまし。」
そう言って中々姿を見せなかった。
いい加減待ちきれなくなってから、久は六畳間の私の寝床にやってきた。
その久の姿に私は心臓があぶつような激しいトキメキを覚えた。
久は今までの粗末な綿の寝巻きではなく、エリだけが白い、全身真っ赤な緋色の襦袢に身を包み、明らかにそれと分かる白粉を塗り口に紅を差していたのである。
体からは桃の香りのような甘酸っぱい香りがかすかに漂っていた。
そんな姿の久を見るのは初めてのことだった。
普段は粗末な麻や綿の仕事着やうわっぱり姿で、無論、化粧などしたことも無く髪も無造作に後ろで束ねているだけだったから、正直、その姿に私は言葉にならない感動を覚えていた。
久は年をくってはいたが、姿勢が良く上背が有り姿は良かった。
そして色が白く凛とした整った顔立ちで昔は別嬪さんだったと噂されていた器量だったから、そうして妖艶に装うと別人のような見栄えだった。
今でも思うのだが三十七と言うのは女が最後に輝く熟しきった色気の迸る年齢なのだろう。だから子を産んでいない久はその最後の輝きを一層強く放つような色気と美しさに満ちていたのだと思う。わずか十二歳の子供には全く過ぎた相手だった。今の私でもその年齢の女には食指が動くのだから思春期を迎えたばかりの子供にはもったいない相手だった。とにかく私は久に性の手ほどきを受けたことを今更ながら人生の最大の幸福だったと思っている。
薄暗い30燭光の電球に照らされた部屋の中で、久の艶かしい姿は、幼い私さえゾクゾク震わせるほどの艶やかな大人の色気に包まれていた。
髪の毛もいつもと違って後ろで束ねずばらりと肩から流して艶やかに黒く光っている。
髪をそうして流すと、酷く若い様子でとても三十七には思えなかった。
私は子供心にも久が本気で私に女の姿で臨んでいるのだと思った。
久は寝床の前にきちんと正座すると、三つ指を突いて私に深々と頭を下げた。
私はあっけにとられて、反射的に起き上がって正座して久に向かった。
「若さあ、ほんに昼間はうれしゅうござんした。こうしてぇ、御礼致しますがいねぇ。あてみたいなぁ
出戻りの婆さんに、あげな事を言って下さるのはぁ、若さあだけでござんす。ほんにうれしょうござんした。」
頭を畳みに擦りつけながら言う久に私は返す言葉が無かった。
「若さあ、昼間もぉ申し上げんしたがぁ、あてみたいなもんは、決して若さあの嫁さんにはなれんです。だけんどもぉ、こうして二人きりで、誰にも知られんとこだけならぁ、ひっそりとぉ二人だけの秘密でぇ、若さあの嫁にしてやってくださらんがねぇ。」
私はまだ子供だったが多くの下女や職工たちの大人の世界を垣間見て育ち、そうした大人の言葉の機微は何とはなしに理解できるのだった。だから久の言っている意味は良く分かった。
本当の嫁にはなれないのだ、それは恐ろしい母が絶対に許すはずが無かった。
しかし、こうして二人きりなら誰にも知られずに嫁さんに出来るのだ。
久はそう言っているのだった。
「ああ、ええよぉ、わしは絶対に誰にもしゃべらん、久とわしだけの二人だけの内緒にする。そんだらあぁええがいね。」
私はようやくの思いで答えた。
「若さあ、うれしゅうござんす。ほんだらぁ、どおぉか、ふつつかなぁけどもぉ、よろしう可愛がってやってくだされぇ。」
また額を畳みにこすり付けて言った。
「ああ、わしこそぉ、どうかよろしう頼み申すがねぇ。」
私も久に習って畳みに頭をこすり付けてそう返した。
十三 夫婦の契り その二
それで儀式は終わりだった。
久はつと立ち上がると天井の電灯を消して、私の寝床にそっと潜り込んだ。
二人は互いに相手の体を抱きしめ合い、口を重ねあった。
そして今までに無い親密な情愛のこもった口吸いが交わされた。
それは今までに無い本気の口吸いだった。
お互いの唾液を貪るように吸い、飲み下し、また求め続けた。
抱いている久の体からは甘酸っぱい香りと女の匂いが強く立ちこめ、いつもとは違った女を感じさせ私は異常に興奮していた。
自然にお互いに着ている物を脱がせ合い、素裸になった。
肌をきつく重ねあい、痛いほどにきつくしっかりと抱き合った。
私はたわわな久の乳房をまさぐり口で吸い、豊かな尻を抱きかかえて、大人の女の豊かな体を心行くまで堪能した。
抱き合いながら、馴染んだ互いの下腹をまさぐり合った。
久はいつもと違ってすでに激しく濡れ、そこは湯のように熱く潤っていた。
そして久の手が硬直した私のチン○を優しく握り締めた。
互いに愛しい相手の性器を手でまさぐり愛撫しあった。
久はすでに息が上がってハアハアと喘ぎ声を漏らしていた。
やがて我慢できずに私が声をかけた。
「ええかぁ?」
問いかける私に久は
「はい」
と小さく恥じらいを見せて頷いて見せた。
後はもう経験豊富な年上の久のリードだった。
私の体を両手で抱きしめながら上に乗るように促した。
促されるままに体を起こして久の腹の上に圧し掛かった。
久が圧し掛かった私の体を下から両手で抱きかかえ、足を開いて私の体をはさみつけた。それで小柄な私は大人の女の腹の上に乗せられて両手両足ですっぽりと包まれるような形になった。
女の体で包み込まれて抱かれることの安堵感、幸福感。
今でもはっきりと覚えているがそれは天国にいるような心地よさだった。
そうしていると、硬直したものが久の下腹に押し重なる。
どうしたものか、と思っていると、つと久の手がそれに触れて誘ってくれた。
私は両手で体を支え両足を踏ん張って姿勢を整えた。
そうして促されるままに腰をゆっくりと進めていった。
先端が熱い湯の中に重なってずるっと少し埋まった。
後は一気呵成に、と逸る気持ちを裏切るように、意外にも、その先は固い壁に阻まれるような感じで、するするとは入らなかった。
いつも指で中を掻き回していたがどうも感覚が違うことに戸惑った。
子を産んでいない久の体は、やはり狭く硬さが残っており、子供の細い指で攻めるのとは勝手が違うようだった。
今思えば、久は三十七と言う年齢にも関わらず、子を産んでおらず、また離縁されてから長い間、空閨を守って来たはずで、いきなりの性行為にすぐには応接が出来なかったのだと思う。それに小柄ながら十二歳になっていた私は、すでに陰毛も生え、一人前に近い一物だったから準備の出来ていない久の体にはきつかったのかもしれない。
私はそんなことは全く思い至らず、ただただ、闇雲に腰を進めたから多少の無理があったのだと思う。無理に押すと流石に久が痛そうな表情で、眉に皺を寄せた。
一瞬どうしたものかと躊躇する私に、
「ええんですよそのまんまでぇ、たんだ、そっとやよぉ、なあ、若さあ・・」
久が小声でそう励まし、背中に回した手で優しく引き寄せ促してくれた。
促されて、再び腰を進めようとすると、久も腰を浮かせて迎え撃つ姿勢を見せた。
女のほうがそうして積極的に動くのが新鮮な驚きだった。
なるほど夫婦の性愛は互いの協同作業なのだと久が言っていたのを思い出した。
お陰で挿入は随分とスムーズなものになった。
きつく押すと久は腰を引いた。
逆に押しが弱いと自ら腰を迫り上げて重ねてくる。
まるで互いの性器の先端同士が意思を持っているように重なり合い、押し付け合い、一つになる作業を進めているようだった。
一進一退を繰り返して、やがて私の性器はしっかりと久の性器の中に挿し込まれていた。そのまま動かず、久の両手が私の尻を抱え込んで引き寄せる。
否応無く私の性器は根元までしっかりと久の性器に埋まり、付け根の部分が痛いほどきつく重なり、ぐいぐいと押し合わさった。
そうしていると、完全に互いの性器が繋がりあったことを実感させた。
久が下から私の顔を挟んで口を求めてきた。
私も腹の下にある柔らかな久の体を力の限りにきつく抱きしめ口付けに答えた。
激しく口を吸い合いながら、二人はきつく重ねた体を擦り合わせた。
下の久のお腹が柔らかく動くたびにちゃぷんちゃぷんと波打つようだった。
決して肥えてはいないが、久のお腹は柔らかく暖かい湯を入れたゴムの袋のようだと思った。
体重を乗せて体を上下に激しく動かす。
そしてきつくきつくあそこをこすり付ける。
私は夢中になって腰を使い、本能の行為に没頭していった。
久はそんな私にしっかりと合わせて従順に従った。
久はもう先ほどから打って変わって、年上の経験豊富なリード役から、素直な可愛い嫁に変わっていた。
久は年上でも決して私を蔑ろにすることは無く、常に目下の立場で私を主人として立ててくれていたし、閨の中の性愛の行為でもでしゃばることなく、控えめに私に従ってくれるのだった。
私はリード役を引き受け、腰を使った。
久もそれに合わせて腰を使い二人の体は一体となってリズミカルに上下し前後に揺れ動いた。
私はたちどころに終焉を迎えた。
当然だったろう。
久の中に入れた初っ端から爆発しそうだったのである。
経験の無い初めての行為に、子供の私は我慢など出来ようはずも無く、一気に興奮の頂点に駆け上がっていった。
さ~っと激しい電流が背筋から脳天まで走りぬけ、思う存分の精を久の腹の中に放ち終えていた。
久も同時に、私の背中に爪を立て、うううううんっと嗚咽を漏らして、体をのけぞらせていた。
・・・・・ 続く ・・・・・
「思い出は降る雪のごとく遠く切なく・・・」 6
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