そのお店では、女の子の源氏名に花の名前を付けていた。
とは言ってみたものの、他の娘の名前は何一つ覚えていない。
「あ、何て言ったっけな~」
覚えづらい名前の最もたるその名前の記憶が皮肉にも唯一の思い出になろうとは。
「あだん、じゃないかな」
「そう。そんな名前でした」
フロントでの会話。
「あ~。そこのおにいさん。ヌキは?」
「指名ナンバーワンの娘があいてますよ」
三月十四日。
地方都市(関東)。
僕はほんとに知らなかった。
官庁街を歩いていたはずが、ふと足を踏み入れたその通りは、いわゆるひとつのそういう通りだった。