今から随分以前の、まだ、携帯電話が自動車電話だけで小型の携帯できる物は無い頃の話です。もし携帯電話が今のようであったらこんなハップニングは起きなかったでしょう。
1 おじいさんに導かれて
おびんずる様占いについて日焼けした顔でおじいさんが声を張り上げて説明してくれている。
『女性が身につけていた布でも糸でもいいから思いを掛けた男に渡す。それを貰った男は翌朝早くここにお参りして、そこの桂の木の枝に結ぶんですよ。それを見た女性は願い事を唱えながらここのおびんずる様を一つだけ持ち上げてみる。願い事が叶うときはおびんずる様が軽く持ち上がるんですよ』
「どうです。そこのお二人。遠くからわざわざこのお寺にお参りに来られたとお見受けするので。一つおびんずる様に願を掛けられたら」
私達がそのおじいさんに指名されてしまった。数人の近くの町からRV車できた人達と、ザックを背負った若者の二、三人に混じって、朱色のニットスーツにハイヒールの亮子さんは目立ってしまう。
「あら、イヤだ。何をお願いしようかしら」
と云いつつもバッグから縫い糸を短く切って私に渡した。
「何をお願いしたいの?」
「いいから、そこの枝に結んできて」
云われるままにちょっと背伸びをして枝に糸を結んだ。
「それじゃ、奥さん、お願いごとを唱えながら手を合わせて下さい」
とおじいさんは云いつつ、おびんずる様の前に紫色の幕を引いた。
亮子さんはお賽銭を入れると手を合わせて拝んだ。深く頭を下げたときニットのスーツが丸い尻の線を際立たせ周囲の人の目線がそこに集まっているのを感じた。それから三人のおびんずる様の一つをそっと持ち上げた。
「あら、本当かしら。全然軽いわ」
と片手で持てることを私に向かって示した。
「そうでしょう。あなたの願い事が叶ったのですよ。」
「本当。嬉しいわ。おじいさんありがとう」
まるで高校生のようにおじいさんの手を取ってぴょんぴょん跳ねんばかりに喜んでいた。
「ご主人の干支はなんですか」
私が答えるとおじいさんは
「それじゃ、辰巳の方角へこれからいらっしゃい。そうするともっと楽しい一日になりますよ」
「いや、これからU市に友達を訪ねるので反対方向ですな」
「いいえ、そのお友達と辰巳の方角で落ち合った方がいいですよ」
「じゃ、どうもありがとうございました」
礼を云って亮子さんと私はそこを離れて車に向かった。山門を出るときも、さっき云われた男が左、女が右、畜生道は山門の外側というのを亮子さんも自然に守って石段にきて始めて腕を絡めてきた。
「何を願掛けたの」
「うふふ、内緒。ナイショヨ」
亮子さんは思わせぶりに微笑むと私の腕の後ろにバストを摺り付けた。
「辰巳の方角だって。ねえ、そうしましょう。山下さんに電話してみません?」
何となく気になっていたおじいさんの指示を亮子さんは見透かしたように、石段をハイヒールの危なげな足取りで下りながら私に囁いた。
近くの店屋から山下さんに電話を掛けると、なんと急に仕事の相談事で来客があるとのこと。ご主人はどうしても出られないが奥さんだけをこちらに向かわせるとのこと。
「どうぞ、ご無理なさらないで下さい。お客が来るのでは奥様も居なくてはだめでしょう。約束は“また”ということにして、今日は私達だけで散策して帰りますから」
急に約束を破ったことに恐縮する山下さんを押しとどめて電話を終わった。
「山下さん、急の来客で都合付かなくなっちゃったらしいよ。だから、“また今度”ということにしたよ。ここから辰巳の方角へこの道沿いに小さな温泉があるんだって。そこの温泉宿を紹介されたよ。とってもいいお湯だって。行ってみるかい」
丁度、そんなことを話している側をさっきのおじいさんが通った。
「温泉が近くに在るんですって」
「ええ、東京の方が良くご存知ですね。S湯といって由緒ある温泉ですよ。小さいけれど湯が豊富で、いい温泉ですよ。方角も丁度よろしいし、是非寄っていらっしゃい」
「その、さっき云われた方角のことで友達に電話したら教えられたんですよ」
「ほぅーら、ご覧なさい。もう、早速いいことがありましたね」
自分の言を信じたことをちょっと誇りにしながらも、親切に道案内と由緒を手短に話してくれた。
亮子さんは近くの店屋で野菜を両手に一杯仕入れてきた。
「お野菜が安いし、とても新鮮なの」
突然、主婦の顔になって白菜の葉の端を摘んで私に示した。近くの龍門の滝の勇壮さを見に行った。こんな平地に滝がそれも相当の水量で、二人ともぼうぜんと眺めていた。
「男性的ね。何かジィーンときちゃうわ」
「ここに?」
腰に回した手に力を入れると
「また、イヤらしいこと考えてるんでしょう。さあ、行きませんこと」
ものの十数分も走るとそれらしい町並みに出たが、想像していたような温泉街ではなく普通の田舎の家並だった。
山下さんの紹介の宿は小高い岡の上にあり、後ろは赤松林の森が見事であった。こじんまりとした新しい建物だった。
案内を乞うと三十代の愛想の良い女将が出てきた。
「さっきご予約の小沢様ですね。どうぞ、お待ちしておりました」
山下さんが先立って電話してくれていた。
軽い昼食を頼むと
「少々お待ち下さい。出来るまでに温泉にどうぞ。大浴場をお使い下さい。昨夜はお泊まりのお客さんが茸狩りで迷子になって、先程までちょっと騒々しかったですが、今はお客さん達だけですから」
と女将さんが出て行った。
離れ座敷で三部屋続きの木の香もかぐわしい立派な造りだった。
「おじいさんの云うこと聞いて良かったわね。こんな素晴らしい宿があるなんて。こちらにいらっしゃらない。田圃がこがね色で綺麗よ」
縁側に出ると目の下に黄色の田が広がり、小さな屋敷林があちこちにまるで海に浮かぶ小舟のように散らばっている。亮子さんの後ろに立って腕を廻す。振り向くと唇を寄せてくる。明るい日の光の下だが遠慮はない。
引き寄せた腰を押しつけながら甘える仕草で
「さっきの願を掛けたのを教えて欲しい?」
「うん」
「笑わないでね。いっぱい頂けるようにってお願いしたの」
「これを?」
と腰を強く引き寄せると『うん』とうなずいた。
「こいつ、もう欲しくなったのか」
指で軽く額をつついて、浴衣に着替えて大浴場へ向かった。
2 彼との出合
大浴場に女中さんの案内で行き二人だけと思って湯船に首まで浸かったとき、女将さんが
「お客さん、済みません。もう一人のお客さんも入っておられます」
洗い場に座わらんばかりに丁寧にお辞儀をしながら云った
「おぅ。その邪魔者は私のことかい。すぐ出るから」
湯船の中央に大きな自然石があり、その向こう側から中年の男性が姿を現した。
「まだお帰りとは知らず、こちらをご案内してしまいました。どうも失礼しました」
私達とその男性に謝りながら女将は出て行った。
「昨夜お泊まりの方は貴方でしたか。私達は差し支えありませんからゆっくり入って行って下さい。でも、ここはきれいな湯ですね」
「いやぁ、もう話は伝わっているのか。警察も『注意しろよ』の一言で済んですぐ帰してくれたので助かりましたよ。それで宿の女将にも断らずに風呂に飛び込んだって訳です」
彼の話しでは、茸狩に出て道に迷って野宿し、今朝ようやく帰ったらしい。東京の人だがこの辺りに詳しいらしく、いろいろこの地のことやこの温泉のことを教えてくれた。お社のおじいさんに指示されてここに来たことを問わず語りに話すと、そのおじいさんのことも良く知っていた。私達よりは少し若いが落ち着いた物腰に、亮子さんも私の陰に隠れるようにしながらも彼と話しをしていた。
「じゃ、失礼しました。よけいな長話しをしてお邪魔しました」
とザァーッとお湯を波立たせて洗い場の隅の方へ出て行った。二人でちょっと場所を移動して体を沈めると、なんと目の前の鏡に彼の姿が写し鏡ではっきりと写っている。彼は知らずに体を拭いているが、黒いがっしりとした躰から直角に勃起したセックスが飛び出している。
亮子さんに鏡を指さしながら
「ご覧。なかなかのものだから」
ちょっと私の云う意味が判らずにいたが、『うふふ』と小さく微笑んだ。
「お先に」
彼が出ていくと急に亮子さんがしがみついてきた。
さっきの彼のいた岩陰に移動して抱きよせる。
肩から背の白い肌が湯をはじく。そっと唇をそこに押し付け引き寄せると、手に乳房の膨らみが触れた。ゆっくりと掌で包み込むと乳首が固くなる。宇宙遊泳のように躰を移動すると私に二つの膨らみを私に預けた。躰を隠しているタオルを取ると横向きに私の躰に抱かれた。太腿の裏側を突き上げている私のそれをソウッと手で脇に寄せるとき私を見上げて微笑んだ。
「じゃまかな。こんなもの」
「あら、ごめんなさい。私重いから」
掌で包み込むように軽くそれを握る。
「さっきの彼の方が立派だったよ」
「意地悪云わないで」
唇を合わせた。舌が絡まり争う。その手は乳房へ、さらに下へ延びた。指にまとわりつく恥毛を下へ撫でると太腿が独りでに開いた。指をこじ入れると手首を止めるでもなく押さえてきた。腟の中の粘ばりにお湯が混ざる。
「ウッ」
と喉の奥で呻めくと首筋にかじり付いてきた。
「ここではいけないわ。強くしないで」
少し続けると“ウッ、フッーッ”と呻きながら両手で私の首にかじりついていた。
「出ようか」
「クッ、クッ。おねがい」
まだ続けて欲しいようだった。膝から降りて膝付で腰を開いて私にかじりついていた。最後には耳元でうめき声を上げて体をぶつけるように私の背中に爪を立てんばかりだった。
「イッタの?」
コクリとうなずく。
二人で湯の中で気の静まるのを待って立ち上がった。体を拭いている私に膝元に屈んで勃起が収まりきらないペニスに頬ずりして
「今日はがんばってね」
続く