蛇姫様のごりやく Ⅱ


前回:  蛇姫様のごりやく Ⅰ

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3 待ちきれずに

 お湯に火照った躰にクーラーの冷気が心地よい。床を取ってある部屋は雨戸が引いてある。建て付けの良い雨戸は軽く押すだけで部屋が明るくなって遠方の山が霞に埋もれるように一望できる。
 亮子さんが襖を静かに開けて入ってきた。
火照って昇気した肌が一段と魅惑的だ。
「こちらへいらっしゃい。クーラーの冷たい風が気持ちいいですよ。景色も良いし」
「あら、本当。まるで展望台ね」
窓から外の景色を眺めている亮子さんの肩を両手で優しく抱きしめた。袖の下に手を差し込むとしっとり湿った肌に触れた。
「さあ」
と促すと気恥ずかしげにうなずく。
「お食事が来るのではないの」
「来る前に電話があるだろう」
浴衣を放り出して、さきに横になると亮子さんは脱ぎ捨てた浴衣を畳んだり部屋のあちこちを動き回る。浴衣に覆われた豊かな腰つきを目で追い、待てずに起き上がって抱きつく。
「ちょっと待って。慌てん坊さん、まるで若い人みたい。いま髪を解きますわ。お待どうさま」
小さくまとまっていた髪から何本かのピンを取り、頭を一振りすると肩まで髪に隠れる。
「そ、それは」
と押しとどめるのも構わず湯の湿りを残したそこにはじめから舌を這わせる。愛液と唾液で滑らかに指を飲み込む。大好きな恥骨の裏のザラザラを丹念に揉む。肩を押さえた私の腕の上で髪を乱して顔を左右に振り乱す。その髪に顔を摺付け息を吸い込む。セクシーな匂いが鼻頂を撃つ。いつもの睦言も無しにもう呻く。そして握った私のペニスをリズミックに擦る。
「イィーッ。イイワァーッ。」
宿の人が来ることを用心してか、小さいがはっきりとしている声をあげる。太腿をきつく合わせて小さくイク。また太腿が緩む。潤れた会陰部まで指の愛撫が広がる。
「そこ、そこイイーィッ。もっと強くして」
いつもは云わない言葉を聞いて少々驚く。
「こうか。これがイイのか」
さらに激しく追い込む。もう子宮頚が指の届くところに下りてきている。
「ヘンヨ。へんになりそう。もっとヨ!」
また太腿をきつく合わせて脚を縮めてのけ反る。頚動脈を太くして顎を天に向けて歯をくいしばる。手戯だけでイク人ではないのに今日は本当に珍しい。
「お願い。もう入れて。余り強くしないで。すぐおかしくなっちゃいそうなの」
マニュキアの指を跳ね返さんばかりに固直したそれを導く。呻めき、叫び、練れ、悶え、媚び、乱れた。
布団から落ちた顔をばらけた髪が覆い隠す。
「疲レチャッタワ。もう脚を延ばさせて」
タフな彼女には珍しい言葉だ。
「どうしちゃったの、今日は。上にならないの」
「もうダメ。あなた、終わって」
「食事の後に取って置こうか」
「ウウン、あなたもイッテ」
いつもの好みの最後を迎える伸展位になる。肘立した私に羽交締めの様にすがりつき太腿で締め上げる。快楽に洗われた女の眉をひそめどこか苦しそうな表情に私は下腹部に押し寄せる狂喜に身を委ねる。

息が荒い息づかいが収まると亮子さんの抱きしめている力がゆるんだ。体を重ねたままでキスをする。終わった後の満足感を表すような微笑みにいつも愛おしさを感じる。そっと体を離すと股間にティッシュを何枚かはさみ、ごろりと横向きになった。満足して柔らかくなったペニスをティッシュで拭いている私の太ももに頬をすり寄せて
「すごーく良かった」
「あのおじいさんの云うこと聞いたからかな?」
「そうね。健三さんも山下さんにあげる分私に全部くださったんだもの」
そんな睦言を交わしながら私の腕枕に頭をのせて甘えてきたのをもう一度抱きしめた。

4 彼を誘う

 しばらく微睡んだのか
「食事が来ましたよ。美味しそうな茸が沢山よ」
優しく起こされた。
「さっきお風呂でご一緒された方が是非こちら様にご馳走するようにと、ご自分で採られた茸を下さったのですよ」
「それは貴重だ。彼が命掛けで採った物だもの。うん、これはおいしい」
「奥さま、髪がきれいですね。纏められても、解かれても。羨ましいわ。では、奥さま、お願いいたします」
女将さんが部屋を出ていくと、ひと騒ぎした後でお腹が減ったのか食事が進んだ。
「そうだ、早速彼に礼を云わなきゃならないね」
電話をするとぼんやりとしているというので、部屋に呼ぶことにした。亮子さんも大賛成。酒の追加を頼むと彼の分もつまみを一緒に持ってきてくれた。
「また、邪魔者が参りました」
彼は話し相手が欲しかったように喜々としてやってきた。亮子さんを真ん中にして、彼の昨夜の遭難騒ぎの話しや、茸の話し、山の話しに惹きよせられて、酒がうまい。
例のお社のおびんずるさまで亮子さんが持ち上げたら軽かったと話すと
「ああ、知っていますよ。太平寺でしょう。あれは何処でもそうだろうけれど、三つのうち一つは木であとの二つは石で出来ているんですよ。ところが、あのおじいさんは説明に来ているときは三つとも木のに変えて置くんです。説明を聞いてその通りにやった人は好運が叶うと喜んで帰られるでしょう」
「なぁーるほど、それは気がつかなかった」
「あの寺は蛇姫様でも有名だが、それを世間に広めたのはあの有名な川口松太郎なんですよ。何でも、昔この近くの郵便局だったかな、勤めていたことがあるらしいとか聞いています。彼の句碑はなかったかなぁ。『つゆ暗く蛇姫様の来る夜かな』というんですがね。でも、あのおじいさんいつまでも元気でいいよ」
「川口松太郎って作家の?」
「奥さんが三益愛子という女優さんで」
「そういえば川口松太郎の小説に蛇姫様なんとかというのがあったような気がする」
「よくご存じですね。新聞小説でネ。随分昔の話だが当時は話題になったらしいですよ」
彼の話しの面白さに酒が進む。
「お二人とも、余り過ぎないでね」

 いつか話はさっきの大浴場でのことになった。
「立派な逸物ですね。亮子さんも見惚れていた位だから」
「あなた、そんな」
一応、女らしい恥じらいを見せておどけて私を叩こうとしたが、そのふざけ方は亮子さんが彼をまんざらでないと思っている心情を私は見抜いた。
「ご主人も人が悪い。奥さんの前でそんな落した話しをして。私の方が照れてしまいますよ」
突然話が核心に触れて彼も戸惑ったようだった。
しかし、ちゃんと彼は悪のりして
「疲れマラというのですよ。そこに奥さんのきれいな肌を見せられてはたまりませんよ。今だって、正直云うと奥さんの浴衣の中を想像してたまらん位ですよ」
小沢は山下さんの急用で突然中止になった今日の予定を思い出した。さっきの軽い戯れだけでは満足していないだろう亮子さんを思って、急にことの成りゆきをこの二人に任せてみたくなった。
「今日は亮子さんがえらく燃えていましてね。私はさっきひと騒ぎしてしまってしばらくお役に立てないし。どうですかひとつ亮子さんを可愛がってやって下さいよ」
「ご主人のお許しが出ましたよ。さあ、ご主人の気の変わらぬ内に私の部屋へ行きましょうか」
彼は根は真面目な癖にいわゆるひょうきん者の面もあるらしくまだふざけていた。
「まあ、ノリの軽い方。健三さん冗談が過ぎますわ」
「じゃ、私は疲れたので少し休ませて頂きますよ。田崎さんはゆっくりして行って下さい。亮子さん、床を寝られるようにしてくれないか」
「すぐ戻りますからお待ちになって」
小沢は部屋の仕切の襖を半分程開いたままにした。しわになったシーツ延ばしてくれた床に身を横たえた。布団から手を延ばして太腿を浴衣の上から撫でながら、隣に聞こえるように少し大きな声で
「一寸度でいいから握ってよ」
「田崎さんがそっちにいるからダーメ」
囁くような小さな声で答えた。
田崎は手酌で飲みながらも、隣室に入っていた二人のことが気になった。よその夫婦が寝室に入ったそのすぐ側に居たことは初めてだった。覗いては悪いと思いつつも首をねじると襖の陰で亮子さんが布団の側に正座している下半身が見えた。意味は分からなくも二人の話し声と亮子さんの背と腰の動きは艶かしくもあり、覗き続けた。
亮子さんは髪をかき揚げると急にご主人の脚の方に半身を倒した。小刻みに上半身を動かしているらしいのが腰の動きから察っせられた。脚と腰が崩れ浴衣の腰の辺りがだらしなくゆるんで腰も揺れていた。田崎は生唾を飲んだ。それ以上覗き込むとご主人と目が合いそうであわてて酒に戻った。でも、何か艶かしい雰囲気を田崎は感じて意識は全部そこに集まっていた。

「彼とこれから愛し合うと思うとたまらんもの」
「あら、妬きもち?健三さんにしては珍しいわ。じゃ、ちょっとだけよ」
亮子さんは田崎さんと私が眠っている間に愛し合うことを否定はしなかった。布団をめくると、もう下着を取って裸で大の字になっているのをみて、いたずらっぽく下腹部を打つ真似をした。髪をかき揚げると柔らかなそれを手で支えて唇と寄せた。
「さっきはどうしてあんなに感じちゃったの」
「どうしなんだろう。自分でも分からないワ。これが悪いのよ」
口に含んでいたそれに舌先を絡めながら下の袋を軽く握りながらつぶやいた。
亮子さんの腰を引き寄せるが、微笑みながら頭を振って断られてしまった。さらに引き寄せようとすると
「さっきの後、お風呂に入っていないからだめよ」
無理矢理裾から手を入れると、確かにショーツのそこは湿りだけでない粘りがあった。
「田崎さんに悪いから履き変えていってよ」
「いやらしい人。もうしてあげない。少しお休みなさい」
布団を掛けると躰を起こした。でも、部屋の隅で、向こうむきだが確かにティッシュでそこを丁寧に拭い、ショーツをちゃんと履き変えて、オーデコロンをふってから部屋を出ていった。

飲んでいる振りをしながら隣の部屋の様子を伺っていたが急に亮子さんが戻ってきてあわててその場を取り繕った。
「すっかり、お待たせしちゃって。ごめんなさい」
「もう、ご主人はお休みになったのですか」
「半日、車の運転をしていて疲れたようですわ」
「そして、奥さんに攻められちゃ疲れるでしょう。でも、羨ましいな。こんなきれいな奥さんと旅が出来て」
「変なことおっしゃらないで。もう少しいかがです」
亮子さんが差し出す徳利を取り上げると、田崎はその手を握って引き寄せた。手を握るだけの積もりだったが、亮子さんが一緒に膝の上に倒れ込んできた。ちょっと隣の部屋にご主人が居ることで躊躇したが、亮子さんが軽く目をつぶってそのままでいるのを見て唇を寄せてみた。つつくように軽くキスをして、抱き直すと亮子さんも後ろ手にお膳を寄せながら躰を密着させてきた。舌を絡めて深いキスをしながら、田崎は頭のなかはめまぐるしく動いていた。

続く

 

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