スケベな想像をしていたわけでは断じてない。
ただ、栞さんのそう遠くはない未来に思いをはせていただけだ。
だが、それでも、彼女に真っ直ぐ見つめられると
僕は居たたまれなくなって、すぐに下を向いてしまった。
下を向いた視線のその先に、、、長テーブルの古びた汚れが目についた。
年季の入ったこのテーブル、ちょうど、人が1人、横になるのに良い大きさなのではないか、
ふと、そんな思いが頭に浮かんだ。
この安っぽいテーブルの上で、何人もの男達に囲まれ
栞さんは全裸になり、そして自ら身体を開いていく・・・
いかん、いかん
僕は妄想を打ち消そうと、頭を振ってから、栞さんに視線を戻した。
「そうですね。社長が居なくても、
奥さんにも関係があることですし、お話を進めていきましょう。
こちらの本間さんからお聞きしましたが、返済の目途が立たないらしいですね」
「・・・はい、、す、すみません」
栞さんは息を飲んだ、
不安げに美しい瞳が揺れる。
僕は注意して優し気な声を出す。
「どうか怖がらないでください。
別に腎臓を売れとか、奥さんに変な店で働けとか、そんな話ではありません」
まあ、いずれはそうなるんだけど・・・
「それでは、どうすれば?」
「私の提案は、借り換えです。」
「え?」
予想外だったらしく、
栞さんは元々大きな目をさらに大きく見張った。
「今、問題となっているのは、
本間さんのところで返済が滞って、延滞利息が雪だるま式に増えていることです。
ですから、弊社で一から借りなおして、本間さんのところは一括返済してしまうのです」
「そ、そんなことが、できるのですか。
今まで、どこの金融会社さんも、そんなことは・・・」
「まあ、普通の会社はそうでしょうね。
ただ弊社は他社さんとは、全く違う独自の査定を行いますので」
言いながら事務所内をくるっと一周見回す。
もちろん借り換えできるほど価値あるものなど、ありはしない。
そう、目の前の貴女を除いては。
自分自身が査定の対象とされていることなど気づきもせず栞さんは
「はい」と軽く返事をした。
「それと、こちらをご覧ください。
本間さんの所よりも若干高めの金利になっております。
お気づきですよね。本間さんのところは法定金利の上限ギリギリでしたから
弊社の場合は、法定金利を超えることになります。」
真剣な表情で頷く栞さん、今の生き地獄から抜け出すには、
多少金利が上がるのは仕方がないとでも思っているのだろう。
だが、問題はそこではない。問題は・・・
文字を追っていた涼やかな目が、ピタリと止まり、大きく見開かれる。
「延滞利息が高すぎます!さ、さすがに、こ、こんなのは無理です!」
想定内。というか、今までに何度も行われてきたやりとりだ。
「えっと・・それは、最初から延滞するつもり、、ということなのですか?
僕も返済するつもりのない人を”助ける”つもりはありません」
あえて”助ける”という表現を強調して話す。
「い、いえ、そういうことでは・・・」
「奥さんさあ」
何かを言いかけた栞さんを遮って本間が怖そうな声を出す。
これが本来の本間だ。ネコナデ声や敬語は作り物に過ぎない。
「今まで散々金策をしてきたんだろ?だったら、分かってんだろ。
助けてくれた業者が居たのか?親戚はいたのか?ええ?」
栞さんはビクッと身を震わせる。
本間だけでなく、終始無言の村松やその手下達の強面も良い圧迫になっている。
もはや誰も金を貸す業者はない。
そのことは栞さん自身もよく知っているはずだ。
それでも、そのことを延々と説明する本間の横で、僕はちらっと時計を見た。
そろそろかな。
予想通り事務所の電話がけたたましく鳴る。
マナーモードにしていても、さっきから栞さんの携帯が鳴っていることには気づいていた。
保育園の迎えの時間がかなり過ぎているのに、携帯に出ないもんだから、
今度は事務所の電話に掛けてきたのだろう。
僕は促す。
「どうぞ出て下さい」
「す、すみません」
飛びつくように電話に出る栞さん、
まさに僕たちが狙った瞬間だった。
僕は肘で本間の腕を軽く突く。
本間は訳知り顔で頷き、そして
「奥さん!こちらでお金を借りて頂く事を強くお勧めしますよ!
それが本当に最後の、”穏便な”解決方法なんです!」
それは電話の向こう側にも聞こえる程の大音声だった。
慌てて栞さんは電話口を抑えながら、こちらを振り返る。
「検討しますから、ですから、大きな声は出さないでください」
本間のことだ、今までも緩急を使い分けて、大声を出してきたことだろう。
これも、いつものことだ。
受話器を抑えるようにしながら
コソコソと電話で話している栞さんの震える背中を見つめながら
僕は言った。
「本間さん、大声を出したりするのは止めましょうよ」
栞さんがチラリとこちらを見る。
僕は笑顔で頷いてみせる。
僕は良い人キャラでなくてはならない。
だから、電話を終えて戻ってきた栞さんに言う。
「大丈夫ですか?お子さんを迎えに行かなければならないのでは?」
「はい、申し訳ございません。検討は致しますので・・・」
「あのさ、あんた”検討する”とか言える立場と思ってるの?」
「まあまあ、本間さん、止めましょうよ
じゃあ、奥さん、資料は置いていきますので、社長さんと一晩、じっくり考えて下さい。」
「では、また明日お邪魔させて頂きます。」そう言って僕は立ち上がった。
去り際に
本間が「奥さんも、もう、こんな顔は見たくないでしょ?」と言いながら栞さんの間近に顔を突き出して見せた。
途端に、栞さんは恐怖に引き攣った表情で、身を引く。
近所や親戚にまで、聞き込みと称して強引に押しかけていった本間には嫌悪しかないのだろう。
それが作戦とも知らずに、
栞さんは、最後まで本間の顔を見ずに、
逃げる様に「夫と前向きに検討します」と囁いた。
事務所を出るとすぐに
村松がブルッと身を震わせる仕草をした。
「ありゃあ、たまんねぇな!」
「兄貴好みの貧乳ですもんね」
「馬鹿野郎!ただの貧乳いうな!
芸術的なまでの、ぺったんこ、肌が白いから余計にそそるのよ
久々だよ、女を見て、震えたのわ」
レイプでもしそうな勢いに
僕は村松を連れてきたことを少し後悔した。
一括りに”美女”と言っても様々なタイプがある。
特に、栞さんのような謙虚で、どこか儚げな美女を目にした時、
男は守ってやりたいと思うと同時に、めちゃめちゃにしてやりたいと思う。
それは村松だけでなく、僕も同様だ。
「でも、あの身体では、それほどは稼げなそうな気がします」
「やりようですよ、先生」
「あれだけの美女だったら、そこら中にファンが居るでしょう
そいつらが、見込み客ですわ」
「そういうことです。同級生やら近所の男やら片っ端から電話掛けさせますよ
私を抱きに来て~ってな具合にw」
「うわっ、ひでえ、その前に私にも味見させて下さいよ」
本間は舌なめずりしながら、携帯を取り出した。
「そのためには、詰めを頑張りませんとね」
言いながら、番号を押す。
「ああ、今終わったよ。
奥さんも納得したみたいだから、きちんとサインをさせるんだ」
栞さんは知らないが、既に社長である夫の方は納得済みの話だった。
夫婦同時に説明しては、冷静に智慧を出し合ったり相談したりしてしまう。
だから、一人づつ説得するのがセオリーだ。
社長のサインを貰っても
栞さんを堕とすためには、栞さん自らの意志によってサインさせる必要があった。
さらに栞さんが渋る夫を説得したという形にするのが理想だ。
翌日になると
朝一番で、栞さん自ら電話を掛けてきた。
これは、良い方に期待を裏切られた。
本間の追い込みが、よほど辛かったのだろう。
借り換えを承諾するという返事だけでなく
二度と近所をうろつくのを、止めさせて欲しいと切実に訴えられた。
愚かな・・・本間など、ぜんぜん生易しい方なのに・・・
そう思いながら、「分かりました。約束します。」と伝えた。
電話を切るとすぐに僕は部下に指示を出した。
あの安っぽいテーブルは残しておくようにと。
それから僅か2か月だった・・・・
「あの貧乳ちゃん、堕ちましたぜ」
栞さんが・・・いや、栞が堕ちたか・・・
「今、若い奴らが営業指導してますわw」
営業指導・・・要するにセッ〇スだ。
当然、若い奴らの前には、この村松が散々やりまくったのだろう。
僕はすぐには何も返せず、かなりの間が空いた後、
ようやく「随分、早かったですね」と感情を悟られない様に答えた。
「いやいや、先生の指示通り動いただけですよ
店に託児所を作れとか、最初は意味不明でしたが」
そう。
子供を質にとられた母親というのは、実に弱いものだった。
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テッテッテッ♪ テッテッテテッ♪
テッテッテッ♪ テッテッテテッ♪
テンポの良い音楽が流れる。
女はリズムに合わせて踊りながら胸元のチャックを下ろしていく。
はっきりした目鼻立ちに、ルージュ映えした形のいい唇。
スカートからのぞく足の白さ、細さ、そして肉付き。
殺風景な”事務所”内に、サマーワンピース姿で踊る女は
明らかにミスマッチだったが、だからこそ、かえって清楚な魅力を醸し出しているとも言えた。
だが、
はだけたワンピから覗く乳房は、張りもなく、身体の線もかなり細い。
華奢を通り越して、病的にさえ見える。
しかし、それでも、集まった男達は興奮で、瞬きすら忘れて見入っている。
男達にとって、その女は、特別だった。それほどの価値があった。
全てを脱ぎ去った女は、惜しげもなく白い裸体を晒しながら
安っぽい長テーブルに腰かけ、上体を反らす様に弓なりに倒していく。
真っ白い項が仰け反り、なだらかな乳房が完全に上を向く。
「カツン」と音を響かせて、
女の身に最後に付けていた黒のヒールが、哀し気に床に落ちた。
「すっげえ、これが、あの栞ちゃんだぜっ」
誰ともなく発したセリフと同時に男達は一斉に女に群がっていった。
『NGなし、何されてもOK アナルも基本料金』
壁に貼られた看板が、
かつては老舗水産会社だった建物の内装に妙な違和感を与える。
部屋は超強力LEDを用いたせいで夜でも真昼間の様に明るい。
栞は自分達の慣れ親しんだ事務所で
ほぼ毎日、客を取らされていた。
一度に何人もの男達を相手にし、
築地の男も、豊洲の男も、、、近所中の男達にやり散らかされ、
母校である慶應の同期、かつての職場の同僚にまで声を掛けさせられていた。
全てを諦め、意思のないセッ〇スマシーンの様に振る舞う栞も
最初のうちは男に抵抗したこともあった。
あの看板が作られる発端となった事件も、そのうちの一つだ。
まだ、事務所ではなく、村松の店に出ていた頃、
かつての同僚だか後輩だかが相手だった。
栞は突然アナルに指を突っ込まれそうになり、思わず男を振り払ってしまったのだ。
クレームはご法度。絶対に許されない。
大きなペナルティが待っていた。
泣き叫ぶ栞の目の前、4歳の子供が屈強な男達にボコボコにされた。
酷い暴力に後遺症が残り、足を引きづる様になってしまったという。
その後、栞に振り払われた男は、店にやってくると
看板を見て、ほくそ笑んだ。
『NGなし、何されてもOK』
「ねえ、栞さん、ケツ突き出して、言ってみて下さいよ」
「ア・ナ・ルも基本料金ってw」
それから、
看板に”アナルも基本料金”が付け加えられた。
栞が村松の店に出ると、知り合いやら口コミやらで、
昼も夜もなく男達が引っ切り無しに訪れたが、しばらくすると客足が落ち着いてきた。
それを見計らって、
僕は、あの事務所の改装を提案した。そして、僕に管理させて欲しいと。
いかにも違法風俗臭ぷんぷんの薄暗い村松の店ではなく
真っ昼間の様に明るい部屋で、
あの栞が大勢の男達を相手に、身体を開いて何でもする。
料金は、何人で参加しても、1時間、3万円。10人で参加すれば1人3千円で済む計算だ。
一人では口に出せない様な変態的なことも、仲間と一緒であればできる!
安い!安いよ!
遠のいた客足は、一気に戻り、予約でびっしり埋まっているのに
見積の甘かった男達が、1時間では遊びつくせないと
狂ったように延長を申し出てくる始末だった。
そんな中、
OL時代の栞の顧客だったという男が、事務所ではなく
社員旅行先の旅館に栞をデリバリーできないかと申し出てきた。
高野と名乗ったその男は、飾られた栞の写真を嫌らしく見つめながら
100万をポンと出して、言った。
「その写真の恰好で来させられますか?」
写真の栞はエロを強調した服装ではなく、
清楚な白いワンピース姿でほほ笑んでいた。
「衣装はご自由に選べます。
予約時間が1時間を超える場合は、お色直しも出来ます。
もちろん、シャワーや風呂で洗って頂いても構いません」
「なるほど、良いですな。この金で丸1日押えさせてもらえませんか?
そうすれば、お色直しは何回でも行けますかね?」
「はい、大丈夫ですよ。
全裸よりも、もっと恥ずかしい格好で、お酌でもさせて下さいw」
「ええ。色々と企画させて貰いますよ。」
僕は下品に唇を歪めた高野の顔に、嫌な予感しかしなかった。
つづき(社員旅行編他 → http://misa770.blog.2nt.com/)