レストランKまで Ⅰ お食事


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 徹夜の仕事が終わって田舎の町の一本道で渋滞にぶつかってしまった。
ここは細い街道に家並みが迫り出していて、大型車が入ると交互通行になり、距離は短いのだが時間が掛かってしまう。その日もバスの二、三台後ろについてしまい、
小一時間は諦めていた。
 バス停でバスが止まる。乗降が終わり、バスが出た。
 しばらく前から私の車の脇を小走りに走っていた四十歳くらいの婦人が、バスが出てしまったのを見て、ガッカリといった表情で立ち止まり、荒い息をしていた。
(次のバス停まで追いかければ何とか間に合うのでは)
 と私は思い、車を止めて声をかけた。
 随分と恐縮してその婦人は車に乗ってきた。
「どこまで行かれるのですか?」
 私の帰る先のP市だった。
「この渋滞さえ抜ければ、車の方が速いし、よかったらP市まで乗って行きなさいよ」
 私が婦人に言うと、
「それはご迷惑でしょう」
 と遠慮していたものの、結局、同乗して行くことになった。
 しばらく走って、いつも一休みするドライブインについた。
 今回は急に徹夜仕事になって宿舎の朝食を予約できず、缶コーヒー一杯で車を走らせてきたので急に空腹を憶えた。
 単身赴任の身では、アパートに帰っても食事かできているわけでもなく、遅い朝食をとることとした。
 このご婦人も先に予定があるわけでもなく、私の食事に付き合ってくれた。
 はじめは恐縮ばかりしていたご婦人も、小一時間もおしゃべりしている間に随分と打ち解けてきた。
 単身赴任で、ご主人が東京へ転勤になった。通勤困難で、ほとんど週末しか帰れない、子供も手が掛からなくなった―知らず知らずに互いに個人的なことも話していた。
 普通のドライブインだが、ここの主人は和食を相当修行したらしく、自慢の料理を頼むとおいしいものが食べられる。
「こんなおいしく頂いたのは久しぶりだわ」
 このご婦人もたいそう喜んでくれたし、
「知らない方とお食事するなんて、初めての経験だわ」
 私との食事を少し興奮気味に喜んでいる様子だった。
一人でとる食事と違って私も楽しかった。
 食事が終わるまでには二人は以前からの知り合いのような親密さが芽生えていて、車までの短い距離だが、私と腕を組むまでになっていた。
 車が走り出すと、ご婦人が急に黙りこくってしまった。むしろ目が虚ろになっているのに近い状態だった。
(何か拙いことでも言ってしまったのかな)
 と心配げに尋ねると、
「浮気や不倫ってこんな気持ちなのかしら」
 驚いて危うくブレーキを踏みそうになった。
 よく聞いてみると別段深い意味があるわけではなく、家庭的に安定して何かの変化が欲しい。そこに今日初めて見知らぬ男性の車に乗って、食事をとったので、そんな気分になったらしい。
 雑誌やTVで不倫や浮気を吹き込まれていて、空想と現実がごっちゃになったのかもしれない。
 少々乙女チックな奥さんであるらしい。
「じゃ、不倫しますか。何ならお相手をつとめますよ」
「ええ。でも、私それほど真剣に考えたことなくて」
「ウヒャー、これは恐いなぁ。真剣に考えてから不倫するなら、私も家内と相談してからにしますよ」
 と、二人とも大笑いになった。
「不倫ってのは、こうやってするのですよ」
 二人で大笑いしているうちに、彼女の手をぎゅっと握りな
がら云った。
 また黙ってしまったが、微笑みかけると、私の顔にチラッと目を走らせ、恥ずかしげに僻いてしまった。
 握っている掌から汗が噴き出したのか、しっとりと熱くなってきた。
 指先を掌の上で円を描くように動かすと、もう片方の手を私の手の上に重ねて、きつく握り返してきた。そして、その手を膝のハンドバックの下へ隠すように持っていった。
 薄地のスカートを通して豊かなまあるい太腿に触れた。
太腿をゆっくりと撫でた。彼女は両手をバッグの上に戻し、盛んにこすり合わせていた。
「運転しながらで危なくないですか」
「ちょっとこっちに寄ってくれませんか」
 素直に腰を私に近づけるようにずらした。内股まで手が届き、指先を細かく動かすとだんだん膝が崩れて開いた。
 スカートを少しずつ引き上げると、さかんに膝のバッグで隠そうとする。
 後ろの席に投げてあった私のコートを渡すと、膝に広げた。
 ゆっくりと優しく太腿を何度も愛撫するうちに、太腿の筋肉がピクンピクンと痙攣した。
「感じたの?」
「イヤッ」
 と小さく叫ぶとキュッと太腿を閉めてしまい、手が動かせなくなってしまった。
 市街地に入る前に、総合運動場の駐車場の木陰に止めた。
 辺りを見回していた彼女は、広い駐車場に誰も居ないとわかると、自分から握っている手を再びコートの下に持っていった。
その積極さに、私は興奮した。
 左手に彼女を抱き寄せ、右手をスカートの下に潜り込ませた。パンスト越しだが手はセックスまで届き、そこがすでに湿り気を帯びているのが分かった。
ショーツが陰唇にくい込んでいた。
 腰を突き出し気味に、セックスは私の指を欲しがっているのに、私の腕を押さえてパンストはとらせてくれなかった。
 私も諦めて、腕の中で荒い息遣いをしている彼女から手を抜いた。
 服の乱れや髪の乱れを直している彼女に、ホテルに誘ってみるが、
「今日初めて会った人とそんな所には行けない」
 ときっぱり断られてしまった。でも、彼女はちょっと躊跨しながら、
「いつかお電話してもいいかしら?」
「ええ、勿論ですよ。この次は『初めて会った人』ではないですよね。不倫や浮気は今日みたいに偶然のチャンスでやるものですよ。どうでしたか今日の感想は?」
「ワルイ人」
 と腕を叩くまねをされてしまった。でも、彼女の表情や声色は、明らかに今日の悪戯を怒っていなかった。

続く

 

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