妻の恋を応援する私


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 突然思い詰めた顔で、妻のめぐみがパートを辞めると言い始めた。めぐみは、週に2~3回程度、近所のファミレスで働いている。私の稼ぎがそれなりに多いので、専業主婦をやってくれても良いと言ったが、まだ子供もいないので少しは働きたいと始めたことだった。
 楽しそうに働いていたので、どうしたのだろう? と思った。28歳の彼女が、可愛らしいファミレスの制服を着て働くのは、少し違和感はあったかもしれないが可愛いと思っていた。イヤなことでもあったのかな? と、心配になって話を聞くと、
「う、うん。そんなんじゃないよ。みんな優しいし、楽しいよ」
 と、歯切れの悪い返事が返ってくる。ますます心配になってしまうが、めぐみは口ごもるばかりだ。話したがらない彼女……でも、どうしても理由が気になってしまう。困ったような顔を見せているが、そんな顔も可愛いなと感じる。

 めぐみとは、コンセプトカフェで出会った。あまりに人には言いづらい馴れ初めだが、コンカフェのキャストの彼女と、客の私が出会った。
 初めて彼女を見たとき、あまりにも可愛くて驚いた。パッチリした大きな瞳、プルンとした唇、可愛さと清楚さが入り混じったような顔立ちをしていた。そして、話してみると、優しくておっとりしたような性格で、ますます気になってしまった。
 そのお店は、猫を擬人化したコンセプトのカフェで、ネコ耳の髪飾りをつけたキャストが、猫のように接客するのが売りだった。ほとんどのキャストは、語尾にニャとつけて話をしていたが、めぐみはどうしてもそれが出来ないみたいだった。顔を赤くしながら、恥ずかしそうに猫になりきろうとする姿が、たまらなく可愛いと思ってしまった。
 そして、通うようになった。めぐみは、正直コンカフェには向いていない性格で、すぐに照れてしまって役に入りきれない感じだった。抜群のルックスでも、それがネックになるのかそれほど人気にはなっていなくて、いつも指名が出来た。

「私って、下手ですよね。どうしたらみんなみたいに猫ちゃんになれるのかな……」
 常連になった私には、そんな不安も話すようになった。私なりに色々とアイデアを話しているうちに、親密になってデートをするようになり、気がつけば結婚していた。推しと結婚出来たと言うことで、私はとても幸運だったのだと思う。
 今も、毎日幸せを感じている。でも、さっきから不安そうな顔になっているめぐみに、ドキドキしてしまっている。なんだろう? 理由は? 気になって仕方ない。

「……怒らないで聞いてくれる?」
 子供みたいなことを言い始めた彼女。そんな風に言われれば、怒らないとしか言えない。
「あのね……その……好きな人が出来たの」
 めぐみの言った言葉の意味がわからなかった。あまりにも予想外で、言葉は聞こえているのに意味が理解出来ていない……。
「あっ、一方的にだよ。私が好きになっちゃっただけで、なんにもないよ!」
 慌てて言い訳をする彼女……でも、まるで言い訳になっていない。どういうことなの? と聞くと、パート先の大学生の男の子のことが好きになってしまったそうだ。でも、そんなのは私に対しての裏切りになってしまうので、パートを辞めてもう会わないようにするという話だ。

 別に、なにもしてないんでしょ? と聞くと、
「してないよ! なにもないよ!」
 と、慌てて言う彼女。あまりにも必死に言うので、怪しいと思ってしまうくらいだ。でも、めぐみが浮気みたいな事が出来ない性格なのは、私が一番知っている。どんな人なの? と聞くと、
「どんなって……ワイルドな感じの男の子だよ。なんか、バイクでレースしてるんだって」
 そんな説明をするめぐみ。微妙に、嬉しそうな顔になっている気がした。他の男のことを、嬉しそうに話す……嫉妬心がもたげてきた。
 でも、どうして好きになったの? と聞くと、
「それは……優しいし、その……カッコいいから」
 と、言いづらそうに答える彼女。全くの青天の霹靂で、二の句が継げなくなってしまった。
「ごめんなさい……俊くんがいるのに……他の人好きになっちゃって……」
 めぐみは、泣きそうな顔になっている。まさかの告白に頭が真っ白になっているが、考えてみれば、正直にそんな告白をしためぐみは真面目なんだと思う。普通は、そんなことは黙っておくものだ。わざわざ口にしたりはしないはずだ。

 正直に話してくれたことにホッとし、正直に話してくれてありがとうと伝えた。好きになってしまったことは、どうしようもないことだ。一目惚れと言うこともあると思う。でも、それでもう会わないようにすると決めたのであれば、問題はないと思う。
 すると、めぐみが抱きついてキスをしてきた。いつにない、激しいキスだ。
「本当にごめんなさい。愛してる。俊くん、愛してる」
 何度も謝りながら、何度もキスをしてくる彼女。そのまま彼女を抱きしめて、セックスをした。別に、仲直りのセックスというわけではないのに、激しく燃えた。めぐみも、いつも以上に乱れている気がした。
 彼女を抱きながら、めぐみが他の男に抱かれる姿を想像してしまった。激しい嫉妬と焦燥感。それが作用したのかわからないが、驚くほど短時間で射精してしまった……。

 セックスが終わり、じゃれつくように甘えてくる彼女……やっぱり申し訳なさそうだ。
「怒ってる?」
 めぐみは、不安そうに聞いてくる。私は、怒っていないと答えながら、彼とセックスしている想像をしたのかと聞いた。めぐみは、わかりやすく動揺した。でも、動揺しながらも、
「してないよ。そんなのダメだもん……」
 と、悲しそうに答える。きっと、実際は想像したんだろうなと思いながらも、それには触れずに彼女を抱きしめた。

 真夜中、急に目が覚めた。すると、めぐみのすすり泣く声が聞こえた。私に背を向けた姿勢のまま、泣いている……私は、なにも言えずにめぐみの胸中を想像していた。悪い予感が増していくが、なにも言えずにしばらく彼女の背中を見つめていた……。
 翌朝、めぐみはいつも通りだった。明るくおはようと言いながら、朝食の準備をしてくれている。でも、目が少し腫れぼったい……。食事の途中で、本当にパートを辞めるのかと聞いた。それでいいのかと。
「それでいいもなにも……それしかないでしょ? 俊くんに申し訳ないもん」
 めぐみは、不思議そうな顔になっている。私がなにを言っているのだろう? と、そんな疑問を感じている顔だ。好きになってしまったものは仕方ないし、なにか悪いことをするわけではないのであれば、辞めなくても良いのではないかと言った。
 アイドルを好きになるようなもので、ファンとして一線を越えなければ良いのではないか? そんな提案をした。自分でも、おかしなことを言っているとは思った。でも、泣いている姿を見てしまって、可哀想と思う気持ちが強い。
「そ、そんなの……俊くんは、それでいいの?」
 めぐみは、気持ちが揺れ動いているような感じだ。私は、めぐみを信じているからと伝えた。実際、好きになってしまってはいるが、それ以上のことをするとは思えない。めぐみは、真面目で貞操観念もしっかりしている。

「……ちょっと、考える。でも、ありがとう。俊くん、愛してる」
 めぐみは、かなり混乱している。私の提案に、ひどく戸惑っているのだと思う。私自身も、どうしてそんなことを言ったのだろう? と、思ってしまうくらいだ。でも、やっぱり泣いているめぐみは見たくない。

 そして、何事もなかったように1週間が経過した。めぐみは、相変わらずパートに出ている。気持ちは固まったのだろうか? と気にしていたが、こちらから聞くのも違うと思って聞かずにいた。
「俊くん、やっぱり辞めるの止めるね。せっかく俊くんが言ってくれたから、甘えさせてもらう」
 めぐみは、スッキリとした顔だ。1週間、かなり悩んだのだと思うが、憑き物が落ちたみたいな明るい表情だ。自分で言い出した事ながら、少し動揺してしまった……。
 めぐみがパートを続けることになっても、当然のことながら変化はない。今まで通りだ。ただ、私の気持ちには変化が起きている。今日は、彼は一緒のシフトだったのだろうか? そんなことを気にするようになってしまった。

 2週間くらいはそのままなにもなく過ぎた。でも、私が我慢出来ずに、色々と聞くようになった。
「え? う、うん。一緒だったよ。私の方が21時に終わって先に帰ったけど」
 めぐみは、軽く罪悪感を感じているような態度だ。無理もないと思う。私は、努めて明るく楽しかった? と聞いた。別に、気にしていないという態度で聞いてみた。
「うん……楽しかったよ。今日も、忙しくなったときに色々助けてくれたから……私、グズだからよく助けてもらってるの」
 めぐみは、私の様子を探るように話を続ける。どうしてそんなことを聞くのだろう? そんな風に感じていると思う。私は、そのまま会話を続けた。彼には彼女がいるのかと聞いたりもした。
「いないよ。もう、2年くらいいないんだって。バイクレースで忙しいから、そういうのはしばらくは良いかなって言ってるよ」
 めぐみは、楽しそうな顔になってきた。彼のことを話すのが、楽しくて仕方ないみたいだ。そして、話題はバイクの話になった。私には縁のない乗り物なので、全く話がわからない。後ろに乗せてもらったことあるの? と聞くと、顔を真っ赤にしながら、
「な、ないよ! そんなのダメだもん!」

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