はじめてのきもち


20文字数:1146

……ねぇ、覚えてる?

“はじめて、自分の体に触れた日”のこと。

私の“その日”は、
……なんてことない朝だったの。

お腹がちくちく痛くて、
制服のスカートがなんだか重たく感じて。
トイレに入って、下着を見た瞬間、
一瞬、時が止まった気がした。

……赤い、にじんだ跡。
わかっていたはずなのに、
その瞬間は、ただただ――びっくりして。

慌てて、ペーパーを引き出して、
そっと拭いてみた。

……その時だったの。

自分でも気づいてなかった場所に、
そっと触れてしまったんだと思う。

びくんって、小さく震えて――
「えっ…なに、いまの……?」って。

痛いわけじゃなくて、
でも気持ちいいわけでもなくて。
知らない感覚。
……どこか、くすぐったくて、恥ずかしかった。

たぶん、
それが“女の子”として目覚める瞬間の、ほんの入り口だったのかもしれない。

……ふれてはいけない場所に、
ふれてしまった――

びくんって、身体が跳ねて、
息が詰まって、
胸の奥がきゅっとなって……

それで、終わるはずだったのに。

わたし……
もう一度、確かめるみたいに、
ゆっくりと……そこに指を戻したの。

そっと……なぞるように。
ほんの少し、やわらかく、押してみた。

……その瞬間だった。

ドアを、ノックしたつもりだったの。
“こんなところがあったんだ”って、ただ確認したかっただけ。

でも――
そのドアは、思っていたよりも軽くて、
あっけないほど、するりと開いてしまったの。

……スーッと、風が通ったみたいだった。

からだの奥に、
今まで感じたことのない熱が走って、
背中がぞくってして、
おなかの下のほうが、じんわり痺れた。

頭が、ふわって遠くなって、
気づいたら……目を閉じてた。

なんで……こんなに、感じてるの?

知らなかった、わたしの中に……
こんな扉があったなんて。

開けてしまったら、
もう戻れないって、
どこかで気づいてたのに。

でも……怖いより、
その向こうを、もっと知りたいって……
心の奥で、はっきり思ってしまったの。

あれが――
ほんとうの意味での、“はじめて”だったのかもしれない。

……そのあとは、
洗面所の引き出しを開けて、
奥の方に置いてあったナプキンを見つけて、
お母さん……準備してくれてたんだって気づいて。

その日の夕ご飯は、お赤飯だった。
何も言わなかったけど、
「おめでとう」の意味、ちゃんと伝わったよ。

なんだか世界が、
昨日と違って見えたの。

自分の身体も、心も、
ちょっとだけ大人になった気がして――
でも、やっぱり怖かった。

それでも、
その“ちょっとだけ”が、
そのあとのわたしの始まりに繋がってたのかもね。

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