……ねぇ、覚えてる?
“はじめて、自分の体に触れた日”のこと。
私の“その日”は、
……なんてことない朝だったの。
お腹がちくちく痛くて、
制服のスカートがなんだか重たく感じて。
トイレに入って、下着を見た瞬間、
一瞬、時が止まった気がした。
……赤い、にじんだ跡。
わかっていたはずなのに、
その瞬間は、ただただ――びっくりして。
慌てて、ペーパーを引き出して、
そっと拭いてみた。
……その時だったの。
自分でも気づいてなかった場所に、
そっと触れてしまったんだと思う。
びくんって、小さく震えて――
「えっ…なに、いまの……?」って。
痛いわけじゃなくて、
でも気持ちいいわけでもなくて。
知らない感覚。
……どこか、くすぐったくて、恥ずかしかった。
たぶん、
それが“女の子”として目覚める瞬間の、ほんの入り口だったのかもしれない。
……ふれてはいけない場所に、
ふれてしまった――
びくんって、身体が跳ねて、
息が詰まって、
胸の奥がきゅっとなって……
それで、終わるはずだったのに。
わたし……
もう一度、確かめるみたいに、
ゆっくりと……そこに指を戻したの。
そっと……なぞるように。
ほんの少し、やわらかく、押してみた。
……その瞬間だった。
ドアを、ノックしたつもりだったの。
“こんなところがあったんだ”って、ただ確認したかっただけ。
でも――
そのドアは、思っていたよりも軽くて、
あっけないほど、するりと開いてしまったの。
……スーッと、風が通ったみたいだった。
からだの奥に、
今まで感じたことのない熱が走って、
背中がぞくってして、
おなかの下のほうが、じんわり痺れた。
頭が、ふわって遠くなって、
気づいたら……目を閉じてた。
なんで……こんなに、感じてるの?
知らなかった、わたしの中に……
こんな扉があったなんて。
開けてしまったら、
もう戻れないって、
どこかで気づいてたのに。
でも……怖いより、
その向こうを、もっと知りたいって……
心の奥で、はっきり思ってしまったの。
あれが――
ほんとうの意味での、“はじめて”だったのかもしれない。
……そのあとは、
洗面所の引き出しを開けて、
奥の方に置いてあったナプキンを見つけて、
お母さん……準備してくれてたんだって気づいて。
その日の夕ご飯は、お赤飯だった。
何も言わなかったけど、
「おめでとう」の意味、ちゃんと伝わったよ。
なんだか世界が、
昨日と違って見えたの。
自分の身体も、心も、
ちょっとだけ大人になった気がして――
でも、やっぱり怖かった。
それでも、
その“ちょっとだけ”が、
そのあとのわたしの始まりに繋がってたのかもね。