その日は、というかその日も現場でした。
そとまわりは楽しいといえば楽しくて、知らない道を車を走らせるのは、なんとなく心が躍ります。
天気もいいし、今日も暑くなりそう。
昨日の雨で、道はぬかるんでいたのですが。
「あっ」
車が往生してしまいました。
「ええっ。真里先輩。こんな山の中で熊でも出たらどうするんですか」
今年入社したばかりの娘が同乗していました。
「レナちゃん。心配ないわ。支店のえむおさんにきてもらうから」
電話をすると夫はすぐに駆けつけるとのことでした。
「えむおさんてあの」
レナちゃんは表情を曇らせました。
『なぬっ。の〇たのやつもうつば付けてんのか』
最近結婚して夫になったえむおさんを私はの〇たと呼んでいました。
山道をうっかり入ってきてしまっていました。
数十メートル先に舗装された道路があったので、歩いて戻ってみると、そこで夫を待つことにしました。
向こうからバンが近づいてきてひと安心していると、
「どうしたの。真里ちゃん。こんなところで」
塚原という会社の男でした。
見ると助手席には六本木という男も乗っていました。
「真里ちゃん。よくお会いしますね」
『よくいうよ』
「また派手に往生しているなあ」
男二人で車を押すとたちまち車は安全なところまで移動できました。
「ところで、レナちゃんていったっけ」
泥が跳ねるからと少し離れていたレナちゃん。
「えむお君がマ〇汁なめたいっていってた娘だよね」
『最悪』
雲行きはかなり怪しくなってきました。
「真里先輩」
車に連れ込まれようとするときレナちゃんの目はぽっかりと穴が開いたように空虚でした。
「あ゛ー」
車の中から悲鳴が聞こえたとき、携帯のベルがなりました。
「あ~。真里。どこにいんだよ」
「うんわかったすぐ行く。道路に出て待ってて」
「あ。六本木さん。それに塚原さんも。ごくろうさまです」
「じゃ、私らはこれで」
「レナちゃんも。これは飛んだ災難でしたねえ」
「えむおさん」
レナちゃんが言いました。
「マ〇汁なめたいんでしょ」